第68話 町の夜は、等しく優しくない
連続投稿です。
67話からお読みください。
日が落ちると、
町の音は変わった。
人は減る。
声は低くなる。
足音が、はっきり聞こえる。
(……夜だ)
灯りの下に残る者と、
影に溶ける者が分かれる。
トアは、
明るすぎない場所を選んだ。
人通りはあるが、
長く留まる理由のない通り。
(……完全に一人になるな)
橋の下は、
風が通る。
倉の影は、
人の気配が残る。
だが――
夜通し居る場所じゃない。
(……見られる)
代わりに選んだのは、
馬屋の裏手。
厩舎の壁は、
夜でも人が出入りする。
匂いは強いが、
人は近い。
(……安全は、
孤立しないことだ)
腰を下ろす。
木剣を、
体の横に置く。
布を一枚、
肩にかける。
火は使わない。
煙は、
人を呼ぶ。
音も、
匂いも、
夜では目印だ。
(……村とは違う)
腹が鳴る。
保存食を、
少しだけ。
水は、
一口。
(……明日分は、
残せ)
遠くで、
怒鳴り声。
近くで、
笑い声。
どちらも、
信用しない。
足音が近づく。
二人分。
大人。
酔っている。
「……子ども?」
声が、
投げられる。
顔は上げない。
「……迷っただけ」
嘘は、
短く。
理由を、
増やさない。
足音は、
しばらく止まり――
やがて離れた。
(……見られたな)
だが――
絡まれなかった。
それで十分だ。
夜が進む。
風が冷たくなる。
眠りは、
浅い。
だが――
眠らないより、
ましだ。
目を閉じる。
耳は、
閉じない。
前世の夜を、
思い出す。
焚き火も、
仲間もない夜。
(……同じだな)
違うのは――
戻る場所があること。
朝になれば、
仕事があること。
それだけで、
立てる。
夜明け前。
町が、
一度、
息を止める時間。
(……生き延びた)
それを、
胸の奥で確認する。
ローディス王国領、
町オーレム。
町の夜は、
誰にも平等だ。
強い者にも、
弱い者にも。
そして――
準備のない者から、
静かに削っていく。
十歳の少年は、
何も失わずに、
この夜を越えた。
それだけで――
今日は、
勝ちだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




