第65話 掲示板に並ぶ、銅貨の仕事
連続投稿です。
64話からお読みください。
冒険者ギルドは、
町の中央通りから少し外れた場所にあった。
石造りだが、
威圧感はない。
扉は開いていて、
出入りも自由だ。
中には入らない。
入口横の壁――
そこに、掲示板があった。
紙は、
上と下で、はっきり分かれている。
上段。
銀貨以上。
討伐。
護衛。
調査。
条件は、
どれも厳しい。
武器。
経験。
年齢。
だが――
下段。
目線を落とすと、
空気が変わる。
「薬草採取 銅貨三」
「下水掃除 銅貨二」
「配達 一件 銅貨一」
文字は荒く、
紙も薄い。
期限も、
曖昧だ。
(……ここだ)
周囲を見る。
子どもも、
いる。
十代前半ほどの少年が、
紙を剥がしている。
大人に混じっても、
止められていない。
(……登録は、
年齢不問か)
ただし――
仕事は、軽い。
報酬も、
軽い。
「銅貨二枚で、
半日」
井戸一汲みが、
二銅。
宿一泊が、
五~六銅。
(……食って、
寝たら終わりだ)
掲示板は、
夢の入り口じゃない。
今日を越えるための、
最低限の現実だ。
一枚の紙に、
目が止まる。
「倉庫の整理 銅貨三」
「半日」
危険は、少ない。
だが――
競争はある。
剥がされていないのは、
理由がある。
(……力仕事か)
今は、
取らない。
まずは、
町を知る。
掲示板から離れ、
通りを歩く。
夕方。
宿の前で、
足が止まる。
「一泊 六銅」
視線を逸らす。
別の宿。
「五銅」
同じだ。
(……無理だな)
空が、
赤くなる。
町の端へ向かう。
倉庫の影。
橋の下。
空き地。
人の目が少なく、
逃げ道がある場所。
――見つけた。
崩れた石壁と、
積まれた木箱。
完全じゃない。
だが――
今夜を越えるには、十分だ。
荷を下ろす。
水袋を、
確かめる。
(……残り、
一日半)
食べ物は、
口にしない。
腹を空かせた方が、
感覚は冴える。
町の夜。
酒場の声。
笑い。
怒鳴り声。
遠くで、
金属音。
(……ここは、
生き残る町だ)
眠る。
浅く。
短く。
それでいい。
ローディス王国領の町。
冒険者ギルドの掲示板は、
誰にでも開かれている。
だが――
並んでいるのは、
銅貨で買える現実だけだ。
今日を越えられるか。
それだけを、
静かに問う場所だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




