第64話 水の値段
町の中を、
しばらく歩く。
人の流れに、
逆らわない。
急がず、
遅れず。
(……まずは、
水だ)
村なら、
井戸は誰のものでもない。
だが――
町は違う。
角を曲がると、
小さな広場があった。
中央に、
石造りの井戸。
周囲に、
人が集まっている。
桶。
革袋。
木の樽。
(……有料だな)
井戸の横に、
木札。
「一汲み 二銅」
安くはない。
だが――
法外でもない。
(……三日分の保存食と、
水が尽きたら終わりだ)
躊躇は、
しない。
袋から、
銅貨を二枚。
番をしている男が、
ちらりとこちらを見る。
年齢を測る視線。
(……子ども、だな)
「……一人か?」
「……はい」
まただ。
町では、
必ず聞かれる。
「親は?」
「……いません」
嘘ではない。
今、
ここには。
男は、
少しだけ眉を動かす。
だが――
何も言わない。
金を受け取り、
桶を指す。
「満水で、
一汲みだ」
「……はい」
水を、
汲む。
冷たい。
澄んでいる。
(……良い水だ)
革袋に、
慎重に移す。
こぼさない。
“魔力”は、
使わない。
町では――
“楽をする”方が、
危険だ。
袋を閉じる。
水の重みが、
肩に戻る。
(……これで、
今日と明日分)
井戸を離れる。
背中に、
視線を感じる。
子ども。
一人。
武器は、
木剣だけ。
(……目立つな)
だが――
目立たない格好をしても、
消えるわけじゃない。
(……なら、
堂々と)
歩き方を、
少し変える。
迷っている風を、
消す。
知っている道を、
歩くように。
(……嘘は、
姿勢でつく)
通りの端。
干し肉の匂い。
商人の声。
腹が減ると、
判断が鈍る。
まずは、
休める場所。
金を、
数える。
銅貨、
残りは――
多くない。
(……無料で寝る場所は、
ない)
なら、
次の選択肢。
橋の下。
空き地。
馬屋の影。
前世でも、
よく使った。
危険だが――
慣れている。
(……夜まで、
観察だ)
町の端へ、
向かう。
人が、
少し減る。
そこで――
聞こえた。
「……昨日の依頼、
辺境の森だったな」
「……ああ、
変なのが出たって」
心臓が、
一拍だけ、
強く打つ。
(……やっぱり、
ここだ)
冒険者たちは、
この町を拠点にしている。
つまり――
世界は、
想像より近い。
(……慎重に、
慎重にだ)
水袋を、
軽く叩く。
重さは、
確かだ。
まだ――
生きられる。
ローディス王国領の町。
名も知らぬこの場所で、
少年は、
一つ学んだ。
水は――
命であり、
信用であり、
金そのものだ。
そして、
それを軽く扱う者から、
真っ先に落ちていく。
物語は、
静かに――
だが確実に、
「旅」の顔を見せ始めていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




