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第60話 一人で歩くということ

連続投稿です。

58話からお読みください。


朝。


村は、

もう見えない。


振り返らない。


振り返れば、

戻れる気がしてしまう。


(……前だ)


街道。


踏み固められた道だが、

油断はできない。


人が通るということは――

人が来るということだ。


足音を、

揃えない。


一定の間隔を、

崩す。


(……追われた時の、

癖だな)


前世のものか。

今世のものか。


もう、

分からない。


昼前。


喉が、

乾いた。


水袋は――

まだ、

使わない。


(……先に、

補充だ)


街道を、

少し外れる。


沢。


音が、

ある。


だが――

それだけだ。


トアは、

すぐには近づかない。


立ったまま、

周囲を見る。


枝。

石。

足跡。


(……大丈夫)


確信じゃない。


“今は、

問題なさそう”という判断。


膝をつく。


水は、

澄んでいる。


だが――

そのままは、

飲まない。


布。


袋の底から、

一枚。


水に浸す。


一度、

絞る。


二度、

通す。


(……これでいい)


考えない。


もう、

そうするものだと、

体が覚えている。


水袋に、

少しずつ。


満たす。


飲むのは、

最後だ。


喉を、

鳴らさない。


(……無防備になる)


水場は、

一番危ない。


だから――

早く。


静かに。


音を、

立てずに。


立ち上がる。


背後。


何も、

ない。


(……よし)


一口。


冷たい。


生き返る。


だが――

それ以上、

飲まない。


必要な分だけ。


歩き出す。


道に戻る前、

一度だけ、

立ち止まる。


足音。


遠い。


人影。


一人か。

二人か。


分からない。


トアは、

姿勢を変える。


肩を、

少し落とす。


歩幅を、

狭く。


(……子供に、

見せろ)


人影が、

近づく。


男。


荷を、

背負っている。


「一人か?」


声は、

警戒していない。


「……村まで」


嘘。


半分だけ。


「そうか」


それだけ。


男は、

通り過ぎる。


背中を、

見送る。


(……見られた)


だが――

追われない。


今は。


歩く。


陽が、

傾く。


足が、

重くなる。


(……保存食、

あと何日)


頭の中で、

数える。


三日。


無理をすれば、

二日。


(……水が、

取れるのは助かる)


だが――

それも、

当たり前じゃない。


だから、

今日も――

確認する。


音。

影。

気配。


誰も、

守ってくれない。


それが、

一人で歩くということだ。


ローディス王国領の街道。


少年は、

もう知っている。


旅は、

自由じゃない。


選び続けることだ。


生きるために、

嘘をつくことも――

含めて。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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