第58話 朝は、平等じゃない
朝。
空が、
白んだ。
(……生きてる)
それが、
最初の思考だった。
体が、
重い。
指先が、
冷たい。
(……寒さ、
抜けてない)
震えは、
止まっている。
だが――
芯が、
だるい。
(……浅く、
眠りすぎた)
立ち上がろうとして、
膝が笑った。
「……っ」
声が、
漏れる。
転びは、
しなかった。
だが――
一歩目で、
分かる。
(……体力、
落ちてる)
村なら、
ここで休めた。
温かい汁。
布団。
母の声。
だが――
今は、
ここだ。
袋を、
背負う。
重さが、
昨日より増した気がする。
(……弱ってる証拠だ)
歩き出す。
太陽は、
まだ低い。
だが――
待ってくれない。
歩かない者に、
朝は等しくない。
しばらくして、
足が止まる。
(……まずい)
息が、
浅い。
視界が、
少し揺れる。
(……無理、
しすぎた)
昨日は、
距離を稼ごうとしすぎた。
(……判断ミス)
前世なら、
弟子を叱っている。
「初日は、
半分で止まれ」
そう言ったはずだ。
(……自分が、
できてない)
歯を噛む。
後悔しても、
戻れない。
だが――
修正は、
できる。
道を、
少し外れる。
木陰。
倒木に、
腰を下ろす。
(……休め)
“気”を、
深く沈める。
呼吸を、
数える。
一。
二。
三。
(……生き延びろ)
強くなるためじゃない。
進むためでもない。
今は――
倒れないためだ。
しばらくして、
息が整う。
立てる。
まだ、
遅くない。
再び、
歩き出す。
正午。
遠くに――
人の痕。
轍。
踏み固められた土。
(……街道だ)
だが――
町は見えない。
まだ、
“生活圏の端”だ。
荷車の跡。
蹄の跡。
だが――
人はいない。
(……今日は、
ここまでか)
焦るな。
一日で、
辿り着く必要はない。
辿り着けることが、
大事だ。
夕方。
昨日より、
早めに止まる。
(……学んだな)
小さな成功。
それだけで、
いい。
布を敷く。
今夜も、
火は使わない。
だが――
体の使い方は、
昨日よりマシだ。
夜。
空を見る。
星は、
同じ。
だが――
自分は、
少し違う。
(……旅に教えられる)
敵の強さじゃない。
距離の長さでもない。
“自分が、
どれだけ無理をするか”を。
ローディス王国領、
街道の外れ。
少年は、
二日目にして――
一つ、正しい失敗をした。
それは、
生き延びるための、
確かな一歩だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




