第53話 言わない人
連続投稿です。
52話からお読みください。
朝。
ハルトは、
いつもより早く起きていた。
鍬を担ぎ、
外に出る。
(……眠れなかったな)
理由は、
分かっている。
畑。
土を、
起こす。
単純な作業。
だからこそ、
考え事が浮かぶ。
(……準備している)
倉。
袋。
動き。
全部、
見えていた。
だが――
聞かない。
ハルトは、
知っている。
問い詰めても、
止まらない時があることを。
昼。
息子が、
水を運ぶ。
動きは、
落ち着いている。
“腹が据わった”動きだ。
(……ああ)
確信する。
(……行くな)
そう言えば、
引き留められる。
だが――
それは、
守ることじゃない。
ハルトは、
鍬を止める。
「……重いだろ」
「……大丈夫」
桶を、
持ち替えさせる。
何でもない動作。
だが――
手の感触で、
分かる。
(……強くなった)
夜。
火を囲む。
リネアは、
多くを語らない。
ハルトも、
語らない。
だが――
一つだけ。
「……村の外は、広い」
「……危ない」
「……帰る場所は、ここだ」
それだけ。
息子は、
顔を上げる。
短く、
頷いた。
それで――
十分だった。
夜更け。
ハルトは、
戸口に立つ。
星空。
(……生きろ)
それだけを、
願う。
ローディス王国領の辺境、
ミルネ村。
ハルトは、
何も言わなかった。
だが――
言わないことで、
全てを伝えた。
行け。
だが、
必ず帰ってこい。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




