第52話 気づく人
連続投稿です。
50話からお読みください。
夕方。
洗濯物を取り込む、
リネアの手が止まった。
(……袋?)
干し場の影。
縫い直された、
古い布袋。
見覚えが、
ある。
(……倉の)
胸が、
静かに鳴る。
問い詰めない。
怒らない。
リネアは、
それを元に戻す。
夕食。
いつも通り。
ハルトは、
畑の話をする。
リネアは、
相槌を打つ。
トアは、
静かだ。
(……やっぱり)
夜。
灯りを落とした後。
リネアは、
声をかけた。
「……少し、外に出ない?」
星が、
よく見える夜だった。
二人並ぶ。
しばらく、
何も言わない。
リネアが、
先に口を開いた。
「……あのね」
「お母さん、全部は分からない」
「でも……
何かを、決めたでしょう?」
トアは、
黙る。
否定もしない。
肯定もしない。
リネアは、
それで十分だった。
「……怖い?」
トアは、頷く。
「……少し」
嘘じゃない。
「そう」
リネアは、
それ以上、
踏み込まない。
「……でも」
夜空を、
見上げる。
「あなたが、
“逃げるため”に
何かをする子じゃないのは、
知ってる」
喉が、
詰まる。
「……まだ、言えない?」
「……うん」
「そう」
リネアは、
笑った。
少し、
寂しそうに。
「……言える時で、いい」
それだけ。
家に戻る。
布団。
リネアは、
扉の前で、
小さく言った。
「……ちゃんと、
帰ってきなさい」
返事は、
できなかった。
だが――
胸の奥で、
強く頷いた。
ローディス王国領の辺境、
ミルネ村。
リネアは、
何も聞かなかった。
だが――
一番大事なことだけを、
先に伝えた。
行っていい。
でも、
帰ってきなさい。
それは、
旅立ちの許しではない。
帰還の、
約束だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




