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第51話 言えない準備
連続投稿です。
50話からお読みください。
朝。
父は、
いつも通り畑へ。
母は、
洗濯物を干す。
村は、
何事もなかったように、
回っている。
(……言えないな)
「村を出る」
その一言が、
どれほど重いか。
前世でも、
分かっていた。
残される側の、
痛みを。
だから――
急がない。
まずは、
準備だ。
昼。
倉で、
古い袋を見つける。
穴は、
縫えば使える。
糸と針。
母の目を盗む。
(……ごめん)
夜。
納屋。
木剣を、
握る。
振る。
型を、
一つだけ増やす。
派手なものじゃない。
“戻るための型”。
逃げる。
守る。
耐える。
(……生き延びる技)
“気”を、
深く。
“魔力”は、
触らない。
今は、
温存だ。
数日。
父が、
言う。
「……最近、倉に入るな」
「……手伝い」
「そうか」
それ以上、
聞かない。
母は、
少しだけ、
こちらを見る時間が増えた。
「……森、
遠く行ってない?」
「……行ってない」
半分は、
本当。
夜。
星を見る。
王都の方向。
(……まだ、遠い)
だが――
一歩目は、
ここだ。
ローディス王国領の辺境、
ミルネ村。
少年は、
誰にも告げず――
未来のための準備を、
始めていた。
それは、
裏切りではない。
帰ってくるための、
約束だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




