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第38話 知るということ


夕方。


冒険者の男は、

村の端で、

焚き火をしていた。


仕事は終わった。

あとは、

一晩の休憩。


(……今なら、

話せるか)


近づく。


男は、

気づいて、

軽く手を振った。


「……子どもか」


「……話、

聞いてもいい?」


「いいよ」


即答だった。


「……魔法って、

難しい?」


男は、

少し考え――

火を見つめた。


「難しい、

って言い方は、

合ってないな」


「覚えることが、

多い」


「失敗すると、

危ない」


「だから――

詠唱がある」


(……安全装置)


「詠唱は、

魔力を“細く、

正しく”流すためのものだ」


「慣れない奴が、

力だけ使うと――

自分が壊れる」


その言葉に、

わしは、

無言で頷いた。


(……前世と、

同じだ)


力は、

制御できなければ、

毒になる。


「……詠唱、

しない人もいる?」


男は、

少し笑った。


「いる」


「でも、

基本的には

変わり者か、

天才か――

その両方だ」


(……なるほど)


「見たこと、

ある?」


「一度だけな」


男は、

遠くを見る。


「王都の、

学院でだ」


「……真似は、

しない方がいい」


「命が安くなる」


その言葉は、

脅しではなかった。


忠告だった。


「……冒険者って、

皆、魔法使えるの?」


「いや」


「剣だけの奴もいる」


「魔法だけの奴もいる」


「両方使える奴は――

高くつく」


(……仕事、

か)


力は、

価値になる。


価値は、

責任になる。


焚き火が、

弾ける。


「……お前、

変わってるな」


「そう?」


「普通は、

もっと目を輝かせる」


「王都だの、

魔法だの聞けば」


「……興味はある」


「でも、

急がない」


男は、

少しだけ、

笑った。


「……長生きするタイプだ」


夜。


家に戻る。


父は、

何も聞かない。


母は、

温かい汁を出す。


それで、

十分だった。


布団に入る。


今日得た知識を、

整理する。


詠唱は、

制御。


魔法は、

仕事。


危険は、

無知から生まれる。


(……自分は、

まだ知らない)


それでいい。


今は、

知る段階だ。


ローディス王国領の辺境、

ミルネ村。


一人の少年は、

力より先に――

知識を選んだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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