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第37話 魔法は、仕事になる

連続投稿です。

35話からお読みください。


昼前。


村に、

見慣れない人影が現れた。


行商人――

ではない。


荷は少ない。

足取りは軽い。


だが――

雰囲気が、違う。


「……記録係の者か?」


誰かが、

そう呟く。


男は、

軽く手を上げた。


「違うよ」


笑顔。

だが――

油断のない目。


「俺は、

“依頼を受けて動く者”だ」


その言葉で、

村人たちがざわつく。


「……冒険者、

か?」


「まあ、

そんなところだ」


(……冒険者)


前世には、

なかった職だ。


だが――

この世界では、

力が“仕事”になる。


男は、

村の年長者の一人と話し、

森の方を見る。


「……魔獣が、

境界まで来たって?」


「……はい」


「被害は?」


「ありません」


男は、

少しだけ、

目を細めた。


「……運がいい」


その言い方が、

妙に現実的だった。


午後。


男は、

森の手前で、

立ち止まる。


「……ここでいい」


杖を、

地面に立てる。


(……杖?)


次の瞬間。


男は、

小さく息を吸い――

口を開いた。


「――《風よ、

道を示せ》」


言葉。


はっきりとした、

詠唱。


空気が、

動いた。


風が、

一方向に流れる。


(……これが、

魔法)


“感じる”だけではない。

“形として見える”。


(……詠唱は、

こう使うのか)


魔力が、

言葉によって、

整えられている。


無駄がない。


安全だ。


(……補助、

なのか)


男は、

頷いた。


「……出てるな」


「奥までは、

来てない」


「……なら、

今回はここまでだ」


それだけ。


倒さない。

追わない。


仕事は、

“確認”だった。


村に戻る。


男は、

報酬として、

保存食を受け取る。


金は、

少ない。


だが――

当然の顔だ。


「……魔法って、

すごいな」


誰かが言う。


男は、

肩をすくめた。


「仕事だよ」


「詠唱も、

慣れれば

手間じゃない」


その言葉に、

わしは、

胸の奥が静かに揺れた。


(……慣れ、

か)


自分は、

言葉を使っていない。


だが――

使っているものは、

同じだ。


夜。


一人、

家の裏。


今日見た光景を、

反芻する。


詠唱。

制御。

仕事としての魔法。


(……魔法は、

特別じゃない)


選ばれた者の奇跡ではない。


“できる者が、

やる”。


それだけだ。


ローディス王国領の辺境、

ミルネ村。


一人の少年は、

初めて知った。


魔法は、

才能の証ではなく――

役割なのだと。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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