第33話 記録に残る村
連続投稿です。
32話からお読みください。
数日後。
再び、
馬の音がした。
今度は、
一頭だけ。
来たのは、
以前と同じ王国兵だった。
「……報告を、
受けてな」
淡々とした声。
「魔獣が出たと」
村人たちが、
顔を見合わせる。
「……被害は?」
「ありません」
父が答える。
兵は、
少しだけ、
眉を上げた。
「……珍しいな」
帳面を取り出し、
書き込む。
村の名。
位置。
被害なし。
「……追撃は?」
「していません」
「正解だ」
また、
同じ言葉。
兵は、
森の方を見る。
「境界付近での出現。
だが、侵入はなし」
「……様子見、
だな」
誰に向けた言葉かは、
分からない。
(……“様子見”)
それは――
助けない理由にも、
なる言葉だ。
兵は、
ふと、
村の子どもたちを見る。
その視線が、
一瞬だけ、
わしに止まった。
(……また、
見られた)
だが――
何も言わない。
何も、
書かない。
「……静かな村だ」
それだけ。
昼前。
兵は、
村を出た。
今回も、
何も残さない。
だが――
帳面には、
何かが残った。
それが、
後でどう使われるかは、
誰にも分からない。
夜。
父が、
ぽつりと言った。
「……この村は、
“問題なし”になった」
「それって、
いいこと?」
母の問い。
父は、
少し考える。
「……今は、な」
わしは、
その会話を、
黙って聞いていた。
(……“問題なし”)
それは、
守られている、
という意味じゃない。
切る必要が、
ないだけだ。
(……だから、まだ来ない)
王国も。
本当の脅威も。
ローディス王国領の辺境、
ミルネ村。
村は、
一行の記録になった。
被害なし。
異常軽微。
対応不要。
少年は、
それを知らない。
物語は、
静かに、
次の段階へ向かっていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




