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第2話 小さな家と、大きな温もり


目を覚ますと、母の胸の中だった。


(……温かい)


柔らかく、少し汗の匂いがして、

不思議と落ち着く温もり。


前世では、

最期にしか感じなかった種類のものだ。


「よしよし……起きたの?」


耳に届く、優しい声。

わしの母親――そう呼ぶべき存在だろう。


細身の体。

決して栄養が足りているとは言えない。

それでも、わしを抱く腕には、迷いがなかった。


「ほら、お父さん。起きたよ」


呼ばれて顔を向けた男――

わしの父親は、朝の支度をしていた手を止め、こちらを見る。


「おお、そうか」


日に焼けた顔。

農作業で鍛えられた体。

ごつごつした手と、擦り切れた服。


(……裕福ではないな)


だが、不思議と悲壮感はなかった。

この家には、どこか穏やかな空気が満ちている。


父は、指一本で、

わしの頭をそっと撫でた。


「元気そうで何よりだ。今日も畑、頑張らないとな」


「無理しないでね。最近、天候も悪いし……」


「大丈夫だ。俺が頑張らないと、この子も育たない」


その言葉が、

胸の奥に、静かに染み込んでくる。


(……守られている)


前世では、

守る側でいることが当たり前だった。


だが今は違う。


この小さな家で、

この二人に守られて、生きている。


母はわしに布をかけ、

父は硬そうなパンをかじりながら、外へ出ていった。


「……またね」


その背中を、

母は少し心配そうに見送る。


(貧しいが……良い家族じゃ)


孤児院で、嫌というほど見てきた。

本当に辛いのは、金がないことではない。


――愛がないことだ。


この家には、それがある。


夜になると、

父は疲れた体で戻ってきた。


収穫は少なかったらしい。


「ごめんな……今日はこれだけだ」


「ううん。あなたが無事なら、それでいいよ」


少ない食事を、

二人で分け合い、笑う。


(……この家族を、守りたい)


その想いは、

意志ではなく、本能に近かった。


前世で強さを求めた理由は、

己の探究心だった。


だが今世では、違う。


――この温もりを、失いたくない。


その夜、

母に抱かれながら、わしは静かに呼吸を整える。


ごく微細に、“気”を巡らせ、

同時に、この世界の“魔力”に触れる。


(……まだ、ほんの少しでいい)


力は、誇るためではない。

守るためにある。


その意味を、

今世で初めて、実感した。


小さな家。

貧しい暮らし。


だが、確かに満ちている、家族の温もり。


ここが――

わしの、始まりの場所だ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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