第22話 王国は、遠くから触れてくる
連続投稿です。
20話からお読みください。
行商人が去ってから、
数日が経った。
村は、
いつもの日常に戻っている。
畑。
修理。
子どもたちの声。
だが――
会話の端々に、
一つの言葉が残った。
「……ローディス王国」
それまでは、
ただの名前だった。
税を取る。
兵を出す。
遠い存在。
だが今は違う。
「北の村、
王国兵が来たらしい」
「魔獣の件だってさ」
「……調べるだけ、
だろうけどな」
“調べる”。
その言葉が、
村人たちの肩を
わずかに強張らせる。
(……調べられる側、か)
わしは、
大人たちの会話を聞きながら、
土を弄っていた。
王国は、
守ってくれるかもしれない。
だが同時に――
管理する。
辺境は、
常にそうだ。
夕方。
父が、
家の前で、
靴の泥を落としていた。
「……王国の役人が、
来るかもしれん」
母の手が、
一瞬、止まる。
「すぐ?」
「……分からん」
父は、
正直に言う。
「来ないかもしれん」
「来ても、
何もしないかもしれん」
それでも――
「来る」という可能性が、
空気を変える。
(……見られる、か)
わしは、
自然と背筋を正していた。
夜。
外は静かだ。
だが――
“魔力”の流れは、
少しだけ、張り詰めている。
人が、
多く動く前兆。
(……世界が、
こちらを見始めた)
前世では、
強者であることは、
誇りだった。
だが――
今世では、
目立つことは、
危険でもある。
(……まだ、隠す)
力も、
判断も。
すべては、
時が来るまで。
翌日。
村の見回りが、
形式的なものに戻った。
緊張は、
少し緩む。
だが――
完全には、消えない。
それでいい。
この村は、
備えを忘れない。
ローディス王国領の辺境
ミルネ村。
王国は、
まだ来ていない。
だが――
その存在は、
確かに、
ここに触れていた。
一人の幼子は、
初めて“力とは別の重さ”を知る。
それは――
権力という名の、
剣だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




