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第21話 行商人は、世界の匂いを運んでくる

連続投稿です。

20話からお読みください。


それは、

昼過ぎのことだった。


村の入り口に、

見慣れない荷車が止まった。


「……行商だ」


誰かが、そう言う。


年に数回。

多くて、三度。


ミルネ村にとって、

行商人は“外の世界”そのものだ。


布。

塩。

金属の小物。

見慣れない瓶。


村人たちが、

少しずつ集まる。


「今年は、

随分遅かったな」


「森が、

荒れてたからだろ」


行商人は、

苦笑いした。


「当たりだ」


軽い口調。

だが――

目は、よく動いている。


(……この人、

ただ者ではないな)


わしは、

少し離れた場所から、

様子を見ていた。


行商人は、

村を見回し、

一瞬だけ、

森の方へ視線を向けた。


(……気づいたか)


何かを感じ取ったのだろう。


父が、

前に出る。


「……被害は、

なかったか」


行商人は、

肩をすくめた。


「この辺りは、

運が良かったな」


「北の村じゃ、

家畜を持ってかれた」


ざわり、と

空気が動く。


(……やはり、

広がっておる)


行商人は、

続ける。


「ローディス王国も、

動いてはいる」


その言葉に、

村人たちの顔が引き締まる。


「だが――

辺境は後回しだ」


期待は、

最初からしていない。


それが、

この村の生き方だ。


行商人は、

ふと、こちらを見る。


視線が、

合った。


一瞬。


だが――

確かに、

見られた。


(……何だ)


行商人は、

小さく笑った。


「元気そうな子だな」


「……まあな」


父は、

短く答える。


それ以上、

話は広がらない。


だが――

行商人の目は、

一度、わしを覚えた。


取引が終わり、

荷車が出る頃。


行商人が、

ぽつりと残した。


「……この先、

何が起きるか分からん」


「だが――

準備してる村は、

生き残る」


父は、

何も返さない。


だが――

背中は、

まっすぐだった。


荷車が、

村を離れる。


土埃が、

静かに落ちる。


(……外の世界は、

近いな)


遠いようで、

確実に繋がっている。


夜。


一人、

空を見上げる。


行商人の話。

北の村。

王国。


(……外に出る理由)


まだ、答えはない。


だが――

問は、

生まれた。


ローディス王国領の辺境

ミルネ村で、

一人の幼子は、

初めて“世界の広さ”を

具体的に感じた。


それは、

不安でもあり、

同時に――

静かな期待でもあった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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