第1話 赤子、修行を始める
静かな村から始まる、少年の旅の物語です。
小さな判断と積み重ねを大切にしています。
……泣き声が聞こえる。
いや、違う。
これは――わしの声だ。
「おぎゃあああああ!」
理解した瞬間、衝撃が走った。
視界はぼやけ、体は思うように動かず、
何より――小さい。
(……赤子、じゃと?)
どうやらわしは、
どこか別の世界で、生まれ直したらしい。
目に映るのは、年季の入った木造の天井。
鼻をくすぐるのは、干し草と木の匂い。
簡素だが、不思議と落ち着く空間だった。
(……貧しいが、悪くない)
そう思えたことに、
自分でも少し驚く。
空気が違う。
肌に触れる感覚が、前世とは明らかに異なる。
――異世界。
理屈ではなく、直感で理解した。
そしてその時、
体の奥底に、奇妙な“流れ”を感じた。
(これは……魔力、か)
前世で扱っていた“気”とは、明らかに性質が違う。
だが、拒絶感はない。
むしろ――
(……似ておる)
静かに意識を向けると、
その流れは、こちらを拒まなかった。
(組み合わせられる)
そう確信した瞬間、
胸の奥が、わずかに熱を帯びた。
前世の記憶を持って生まれたことに、意味がある。
この世界で、わしは――
(また、極めろということじゃな)
視界の端で、
誰かが慌ただしく動いている。
どうやら両親らしい。
着古した服。
土に汚れた手。
農民だろう。
そして、この家の造りからして、
かなり辺鄙な村に違いない。
(……人目が少ないのは、好都合じゃ)
夜。
家の中が静まり返った頃、
わしは赤子の体で、意識を内へと向けた。
呼吸。
微細な意識操作。
かつて、
孤児たちに最初に教えた、基礎中の基礎。
(……できる)
驚くほど、自然だった。
未熟な体でも、
“気”は確かに生まれる。
そしてそれは、
この世界の魔力と触れ合い、
ごく僅かに――溶け合った。
ピリ、とした感覚。
(……成功じゃ)
ほんの一瞬。
だが、確実に――
前世を超える可能性を感じ取った。
しかし、
赤子の体は正直だ。
すぐに意識が遠のき、
抗うこともできず、眠りに引きずり込まれる。
(急ぐ必要はない……)
時間は、いくらでもある。
この世界で、
もう一度――武の頂を目指そう。
辺境、
小さな村から始まる、
新たな人生の第一歩だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少しずつ世界が広がっていく予定です。
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