第17話 村に走る、静かな違和感
それは、
誰かが声を上げたわけでもなく、
急に起きた出来事でもなかった。
ただ――
少しずつ、ずれていった。
「……今年、鹿が多くないか」
畑で、
村の男たちが話していた。
「森の奥に、
入ってくる回数が増えてる」
「作物、
荒らされてるな」
深刻な被害ではない。
だが、
確実に“いつもと違う”。
ミルネ村は、
森と共に生きている。
獣が出るのは、
珍しくない。
だが――
近い。
(……森の奥で、
何か起きている)
わしは、
遊びの合間に、
大人たちの会話を聞いていた。
聞くつもりはなくても、
耳に入る。
「罠を、
増やした方がいいか」
「でも、
鉄が足りない」
「王国からの支援は、
まだ先だろうな」
(……ローディス王国)
名前だけの存在。
遠い。
頼れるのは、
この村だけだ。
夕方。
トゥルが、
少し不安そうに言った。
「なあ……
森、近づくなって」
「おやじが、
言ってた」
ミアも、
頷く。
「この前、
音がしたって」
(……なるほど)
音。
獣だけなら、
村人は慣れている。
“慣れていない音”が、
あったのだろう。
夜。
家族が揃って、
食卓を囲む。
父が、
ぽつりと口を開いた。
「……明日から、
子どもは森に近づくな」
母が、
少し驚いた顔をする。
「そんなに、
危ないの?」
「……分からん」
正直な答え。
「分からないから、
近づかせない」
(……正しい判断だ)
父は、
強くない。
だが――
無謀ではない。
夜更け。
皆が眠った後、
わしは、
そっと外に出た。
空気を感じる。
風の流れ。
森の気配。
(……ざわついておる)
“魔力”が、
微かに乱れている。
前世にはなかった感覚。
だが、
確かに――
何かがある。
(……まだ、見るだけだ)
近づかない。
深入りしない。
今のわしにできるのは、
“知る”ことだけ。
翌日。
村では、
見回りが増えた。
大人たちが、
交代で夜を回る。
剣を持つ者は、
ほとんどいない。
農具で、
代用している。
(……弱い)
だが――
ここは、
そういう村だ。
守るものは、
畑と、家と、
子どもたち。
それだけ。
その中に――
わしも含まれている。
ローディス王国領の辺境
ミルネ村で、
小さな違和感は、
確かな形を持ち始めていた。
それはまだ、
事件ではない。
だが――
確実に、
次の選択を呼び寄せている。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




