第16話 父は、先に立たない
連続投稿です。
14話からお読みください。
畑仕事は、
考える時間が多い。
鍬を振るい、
土を返す。
単調な作業の中で、
頭は、自然と家のことへ向かう。
息子――トア。
元気だ。
よく食い、
よく動く。
それだけなら、
何の問題もない。
だが――
「それだけ」ではない。
村の連中が、
ぽつりぽつりと、
口にする。
「よく転ばないな」
「目が、落ち着いてる」
「……あの子、
ちょっと違うよな」
否定も、
肯定もしていない。
ただの事実として、
皆、気づき始めている。
(……当然だ)
あの子は、
自分で考えて動いている。
子どもらしく、
勢いで突っ込まない。
危ないことを、
本能で避けている。
それは――
教えてできることではない。
だが、
聞かない。
聞けば、
何かが変わる。
今はまだ、
変えなくていい。
夕方。
家に戻ると、
息子は外にいた。
畑の端で、
静かに立っている。
「……何してる」
「……たいそう」
いつも通りの答え。
(……それでいい)
無理に、
踏み込む必要はない。
俺は、
剣も使えない。
魔法も、分からない。
できるのは、
生き方を見せることだけだ。
「飯だ」
そう声をかける。
息子は、
素直に家に入る。
食事中。
よく噛んで、
残さず食う。
その姿を見て、
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
(……ちゃんと、育ってる)
夜。
妻が、
小さく言った。
「……あの子、大丈夫かな」
俺は、
少し考えてから答える。
「大丈夫だ」
根拠はない。
だが、
口に出した。
「……あいつは、
自分で立つ」
それだけ言うと、
話は終わった。
妻は、
それ以上、聞かなかった。
夜更け。
外は静かだ。
家族が眠る中、
俺は一人、外に出る。
星が、
綺麗だった。
(……この村は、
強い者には向かない)
辺境。
貧しい。
守るものも少ない。
だが――
家族がいる。
だから、
俺はここに立つ。
息子が、
いつか外に出るなら――
その時まで、
ここを守る。
背中で、
そう決めた。
辺境のミルネ村。
一人の父は、
まだ何も語らない。
ただ、
立ち続けることで、
息子の道を支えていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




