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第15話 母は、知らないまま見ている

連続投稿です。

14話からお読みください。


朝の光は、

いつも同じように差し込む。


ミルネ村の朝。

畑へ向かう夫の背中を見送り、

私は、家の中を整える。


その間、

あの子――トアは、

静かだ。


泣きもせず、

騒ぎもせず。


赤ん坊の頃から、

少し不思議な子だった。


(……手のかからない子)


そう思っていた。


ありがたい、と思う反面、

胸の奥に、

小さな引っかかりが残る。


最近は、特に。


朝、

外に出ると、

あの子は畑の端に立っている。


じっと、

地面を見つめて。


「……何してるの?」


そう聞くと、

必ず、短く答える。


「たいそう」


(……たいそう、ね)


子どもの言葉だ。

深く考える必要はない。


そう、思うことにしている。


食事の時。


よく食べる。


貧しい食卓だ。

特別なものは、何もない。


それでも――

あの子は、残さない。


(……この子、きっと、簡単には折れない)


ふと、

そんな考えが浮かぶ。


すぐに、

頭を振る。


期待しすぎるのは、

よくない。


この村で、

子どもに望むことは、

一つだけ。


無事に、

大きくなること。


それだけで、

十分すぎる。


昼。


村の女たちが、

水汲み場で話していた。


「トアくん、

ほんと元気よね」


「転ばないし」


「……目、しっかりしてる」


最後の言葉に、

胸が少し、ざわつく。


(……目?)


家に戻ると、

あの子は、土だらけだ。


遊んできたのだろう。


「おかえり」


そう声をかけると、

小さく頷く。


その仕草が、

妙に落ち着いて見える。


(……まだ、こんなに小さいのに)


夜。


あの子が眠った後、

私は、寝顔を見る。


穏やかだ。


苦しそうでも、

不安そうでもない。


ただ――

静かすぎる。


(……この子は、何を考えているの?)


分からない。


分からないけれど――

怖くはない。


なぜだろう。


胸の奥で、

確かな感覚がある。


この子は、

自分で選んで、

立っている。


そんな気がする。


私は、

その選択を、

邪魔したくない。


できることは、

多くない。


温かい食事。

眠れる場所。

帰る家。


それだけだ。


(……それで、いい)


母として、

できることをする。


あとは――

見ている。


ただ、見ている。


辺境のミルネ村。


一人の母は、

まだ知らない息子の未来を、

何も知らないまま――

深い愛情で、包んでいた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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