第14話 なんとなく、目に留まる
ミルネ村は、小さい。
誰がどこで何をしているか、
大体は把握されている。
だから――
“違い”は、意図せず目に入る。
「……あの子、よく動くな」
畑仕事の合間、
村の男がそう言った。
指の先には、
子どもたちと走り回る、わしの姿。
「そうか?」
「いや……速いとかじゃない」
男は言い直すように、
顎に手を当てた。
「転ばないし、止まり方が妙に上手い」
隣の男が、
鼻で笑う。
「考えすぎだ。
あの歳なら、元気なだけだろ」
「……まあな」
会話は、
そこで終わった。
ミルネ村では、
“少し変わっている”程度は、
気に留めるほどのことではない。
別の日。
水汲み場で、
女たちが話していた。
「トアくん、
あんまり転ばないよね」
「そうそう。
走ってるのに、ぶつからない」
「……目が、いいのかしら」
褒めるでも、
疑うでもない声。
ただの感想。
(……十分だ)
説明を求められない違和感。
それが、一番安全だ。
夕方。
トゥルが、
肩で息をしながら笑った。
「おまえ、
まだ走れるのか!」
(……体が、慣れてきた)
「つかれないの?」
ミアの問いに、
少し考えてから答える。
「……すこし、つかれる」
本当だ。
疲れないわけではない。
ただ、
回復が早いだけだ。
家に戻ると、
母が迎えてくれた。
「今日も、いっぱい遊んだ?」
こくり、と頷く。
母は、
一瞬だけこちらを見つめ、
それから微笑んだ。
「……元気で、なにより」
(……気づいておるな)
だが、
聞かない。
確かめない。
母は、
そういう人だ。
夜。
父が、
食後にぽつりと呟いた。
「村の連中が、
お前のこと、少し話してた」
声は、
低く、落ち着いている。
「悪い話じゃない」
それだけ言って、
話題を終わらせた。
(……ちょうどいい)
辺境のミルネ村で、
一人の幼子は、
“少しだけ違う存在”として、
静かに記憶され始めていた。
だが――
それはまだ、
名前のない違和感。
運命を動かすには、
あまりにも小さい。
嵐の前の、
風向きが変わっただけの段階だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




