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第12話 父の言葉は、多くない

連続投稿です。

11話からお読みください。


トゥルの怪我は、大事にはならなかった。


数日、足を引きずっていたが、

子どもというのは回復が早い。


また、いつもの場所で、

走り回っている。


(……問題ない)


その様子を、

少し離れた場所から見ていた。


「……心配だったか」


背後から、父の声。


振り返ると、

畑仕事を終えた帰りらしく、

土の匂いがした。


わしは、

こくりと頷く。


父は、それ以上は聞かない。


一緒に、

トゥルたちを眺める。


「子どもはな……」


ぽつりと、

父が言った。


「転んで、覚える」


(……そうじゃな)


「痛い思いをして、

どこが危ないか、

身体で覚える」


言葉は少ない。

だが、

一つ一つが、重い。


「……守りたいと思うだろ」


突然、そう言われた。


胸の奥が、

小さく跳ねる。


(……分かっておる)


だが、

わしは答えない。


父は、

それで十分だと分かっているようだった。


「全部は、守れない」


父は、

空を見上げる。


「俺もな、

できれば全部、

守ってやりたい」


その横顔は、

少しだけ、疲れて見えた。


「でも……

手が届かないことも、ある」


沈黙。


風が、

畑を渡る。


「だから――」


父は、

わしを見る。


「転ぶ前に、

立ち方を教える」


その言葉が、

胸に、すっと入ってきた。


(……なるほど)


守るとは、

抱え込むことではない。


立ち上がれるようにすること。


父は、

剣も魔法も使えない。


だが――

生き方を、知っている。


「お前も、

いつか外に出る」


まだ早い話だ。

だが、

父は先を見ている。


「その時、

転ぶなとは言わない」


父は、

静かに続ける。


「立てるように、

なっていればいい」


言葉は、

そこで終わった。


父は、

再び畑へ戻っていく。


その背中を、

わしは見送った。


(……父よ)


前世では、

教える側だった。


今世では、

教わる側だ。


だが、

不思議と、違和感はない。


夜。

家族が眠った後、

わしは一人、呼吸を整える。


“気”と“魔力”は、

静かに巡る。


だが――

そこに、

新しい基準が加わった。


(……立てる力)


速さでも、

強さでもない。


折れずに、

立ち上がる力。


それを、

まずはこの体に刻もう。


辺境のミルネ村で、

一人の幼子は、

父の背中から、

生きる術を学んだ。


それは、

剣よりも、

魔法よりも、

確かな教えだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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