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第105話 同じ印の、違う見え方

連続投稿です。

103話からお読みください。


――カナ視点――


朝。


ギルドは、

昨日より少しだけ早く動いていた。


女冒険者―カナは、

依頼を確認する。


札の並びは、

ほとんど変わらない。


だが――

一枚だけ、

裏返されている。


「確認済」


赤い字。


(……外縁のか)


カナは、

その札を見て足を止めた。


場所。

距離。

印。


記憶に、

引っかかる。


(……この場所)


気になる。


受付が、

顔を上げる。


「カナ、これ頼める?」


呼ばれて、

初めて気づく。


(……ああ)


自分の番だ。


「奥までは行かない」

「触らない」

「確認だけ」


「異常があれば、戻って」


いつも通りの指示。


カナは、

頷いて札を取った。


町外縁。


道。

風。

乾いた土。


(……普段と同じ)


だからこそ、

慎重になる。


問題がない場所ほど、

“油断”が混じる。


印の場所。


木片は、

そのまま残っていた。


倒れてもいない。

動かされてもいない。


(……置き方がいい)


目立たず、

だが――

見失わない。


近づく。


視線を落とす。


土。

草。

空気。


(……弱い)


魔力の歪みは、

ほとんど消えている。


だが、

完全じゃない。


(……削ってない)


“何かをした”痕跡がない。


触っていない。

試していない。

追ってもいない。


ただ――

見て、引いた。


(……子ども、か?)


一瞬、

そんな考えが浮かぶ。


だが――

すぐに否定する。


(……いや)


子どもで、

これを“残せる”なら、

それはもう子どもじゃない。


印の位置を、

書き留める。


小さく、

だが正確に。


(……これでいい)


それ以上、

何もしない。


それが、

仕事だ。


戻る。


ギルド。


受付に、

報告書を置く。


「異常、拡大なし」

「接触痕なし」

「印の周囲、自然回復傾向」


そして問う。


「昨日の札を取ったの、

だれ?」


受付は、

書類を見て、

一度だけ顔を上げた。


「……昨日の札は、

あの子だったわね」


一拍。


カナの指が、

止まる。


「あの子?」


「十歳」

「木札」

「銅貨帯」


言われて、

繋がった。


(……ああ)


倉庫整理。

配達。

距離の短い札。


いつも、

下段。


目立たない。

だが――

失敗しない。


「……名前は?」


「トア」


カナは、

何も言わなかった。


だが――

胸の奥で、

小さく腑に落ちる。


(……そうか)


“触らなかった”のは、

怖かったからじゃない。


“分かっていた”からだ。


外へ出る。


昼前の光。


町は、

いつも通りだ。


だが――

ギルドの中で、

一つだけ、

見方が変わった。


ローディス王国領の町、

オーレム。


女冒険者は、

ようやく気づいた。


昨日、

何も起きなかった理由を。


それは、

偶然じゃない。


“選ばれた何もしなさ”が、

そこにあった。


そして――

その選択をしたのが、

十歳の少年だったことを。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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