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第104話 見えたもの、触れなかったもの

連続投稿です。

103話からお読みください。


町外縁。


人の往来が、

はっきりと途切れる場所。


畑と空き地の境目。

使われなくなった柵。

倒れたままの標識。


(……ここからだな)


依頼書に描かれていた、

印の位置。


トアは、

歩幅を自然に落とした。


急げば、

見落とす。


遅すぎれば、

“何かが起きている”証拠になる。


(……半日)


時間は、

十分にある。


周囲を見る。


土は乾いている。

足跡は――

人のものが一つ。

古い。


(……最近じゃない)


風。


流れが、

一度、乱れる。


(……ん)


止まる。


“気”を、

落とす。


身体を、

ただの重りにする。


視線だけを、

動かす。


空き地の奥。

草の色が、

わずかに違う。


踏み荒らされた跡。

だが――

獣ではない。


(……引きずった、か)


倒れた柵の影。


そこに、

“痕”があった。


焦げでもない。

血でもない。


土の上に、

薄く残った――

魔力の歪み。


(……弱い)


だが、

消えきっていない。


(……一晩は越えている。

だが、三日は経っていない)


新しすぎない。

だが、

“なかった”とも言えない。


トアは、

一歩だけ近づく。


それ以上は、

行かない。


依頼書の文言が、

頭をよぎる。


【異常があれば、印を付けるだけ】


触るな。

試すな。

確かめるな。


(……十分だ)


腰の袋から、

小さな木片を出す。


依頼書に指定されていた、

印。


地面に、

そっと置く。


目立たない。

だが――

分かる者には分かる。


(……これで、いい)


引き返す。


背中を向ける瞬間、

一度だけ、

空気が揺れた。


(……見られてる?)


錯覚だ。


振り向かない。


振り向いた時点で、

“関わる”になる。


歩く。

一定の速さで。

一定の呼吸で。


町の気配が、

少しずつ戻る。


人の声。

荷車の音。

金属の匂い。


(……戻れた)


それだけで、

胸の奥が緩んだ。


夕方。


ギルド。


依頼書を差し出す。


受付の女は、

印の位置を見て、

短く頷いた。


「……余計なことは?」


「……してません」


「そう」


一拍。


「判断は、正しい」


銅貨五枚。


台の上に、

音を立てて置かれる。


(……終わった)


だが――

完全ではない。


受付が、

淡々と言う。


「この印、明日別の人間が確認する」


「何もなければ、それで終わり」


「……あれば?」


「その時は――」


言葉を切る。


「“次の札”が出る」


トアは、

何も聞かなかった。


聞く必要も、

なかった。


外へ出る。


夕方の空。


町外縁は、

もう見えない。


だが――

確かに。


“線の向こう側”に、

足を置いた感触が残っている。


ローディス王国領の町、

オーレム。


少年は、

戦わなかった。


触れもしなかった。


それでも――

何かを見て、何かを選び、何かを残して帰った。


それは、

戦闘よりも先に必要な力。


“戻れる判断”だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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