第103話 一段、重い札
朝。
掲示板の前に立った瞬間、
違和感に気づいた。
下段。
いつもなら、
距離・時間・内容が一目で分かる。
だが――
一枚だけ、書き方が違う。
「町外縁/半日」
「確認作業あり」
「報酬:銅貨五」
(……五枚)
銀貨には届かない。
だが、四でもない。
確認作業。
その言葉が、
わずかに引っかかる。
(……掃除でも、配達でもない)
紙をよく見る。
「立ち入り注意区域の外縁」
「異常があれば、印を付けるだけ」
倒すな。
追うな。
報告のみ。
(……危険は、自己判断)
それが、
行間に書いてある。
指が、
一瞬だけ止まった。
(……引き返せる)
今なら。
四枚の札は、
まだ残っている。
安全で、
人目があって、
いつも通り終わる。
だが――
(……確認、か)
頭の中で、
これまでの一ヶ月がよぎる。
失敗なし。
問題なし。
減点なし。
その代わり――
加点もない。
(……一段だけ、だ)
大きく跳ばない。
だが、
足を上げなければ届かない高さ。
紙を剥がす。
音は、
思ったより大きかった。
受付に出す。
女は、
紙を見て一瞬だけ目を上げた。
「……それか」
声色は、
変わらない。
だが――
確認する視線が、
一つ増えた。
「無理はするな」
「異常を見たら、引き返せ」
「報告だけでいい」
頷く。
(……分かってる)
外へ出る。
町の端。
人の数が、
少しずつ減る。
舗装が荒れ、
道が細くなる。
(……この感じ)
森ほどじゃない。
だが――
村の外れに近い。
空気が、
少しだけ重い。
足を止める。
“気”を、
落とす。
“魔力”は、
使わない。
今は、
見るだけだ。
倒す必要はない。
正す必要もない。
ただ――
確認する。
それが、
今日の仕事。
(……大丈夫だ)
そう言い聞かせていることに、
自分で気づく。
(……大丈夫、か)
紙の重さを、
もう一度感じる。
銅貨五枚。
いつもより一枚重い。
だが――
それ以上に。
責任が、
少しだけ重かった。
ローディス王国領の町、
オーレムの外縁。
少年は、
初めて――
「引き返すことも仕事に含まれる依頼」を
受け取った。
それは、
戦いの一歩手前。
だが確かに、
戻れなくなる線に近づく一歩だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




