第99話 見ている者の距離
連続投稿です。
97話からお読みください。
朝。
ギルドに入ると、
掲示板の前に人が集まっていた。
上段。
銀貨札が一枚。
条件は多い。
森。
確認。
報酬――
銀貨三枚。
(……安くはない。だが、高くもない)
だからこそ、
迷う者が多い。
「行くよ」
通る声。
杖を持った女冒険者だった。
札を剥がす前に、
条件を一度、指でなぞる。
「奥までは行かない」
「異常の“確認と抑え”だけ」
それを聞いて――
「なら、俺も行く」
一人。
軽装だが、
目が落ち着いている。
「……二人じゃ足りないだろ」
もう一人。
剣を背負った男。
「三人でいい」
「これ以上は、多い」
女はそう言って、
札を剥がした。
即席。
だが――
軽い空気はない。
(……分かって来てる)
トアは、
少し離れた場所から、
それを見ていた。
来ているのは、
“足りる”人間だけ。
安いと思うなら、
最初から来ない。
掲示板の下段に目を戻す。
いつもの依頼。
距離が短く、
人目がある。
銅貨四枚。
(……今日も、これでいい)
依頼書を取る。
受付に出す。
いつもの流れ。
だが――
背中に、視線を感じた。
女冒険者だ。
一瞬。
(……覚えられたな)
外。
倉庫の裏で、
荷を運ぶ。
昼前。
町の外れから、
魔力の揺れが伝わった。
三つ。
揃って動いている。
(……無理をしていない)
夕方。
ギルドに戻ると、
銀貨札は完了になっていた。
怪我なし。
被害なし。
異常拡大なし。
簡潔な報告。
「……さすがだな」
誰かが言う。
女冒険者は、
何も答えない。
トアの番。
依頼書。
署名。
確認。
「問題なし」
銅貨四枚。
受付の声。
その時――
また視線を感じた。
女冒険者。
今度は、
はっきりと見ている。
(……何を見てる)
トアは、
気づかないふりをして、
木札を握り直した。
外へ出る。
夕方の風。
同じ町で、
同じ日に、
二つの仕事が終わった。
銀貨三枚の仕事。
銅貨四枚の仕事。
どちらが上かは、
誰にでも分かる。
だが――
どちらが“続く”かは、
まだ分からない。
見ている者は、
すでにいる。
ローディス王国領の町、
オーレム。
少年は、
戦わなかった。
だが――
戦う者と同じ場所で、
「選び方」だけは、
確かに見られていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




