第九話「あしたへ」
はじめまして、宵月の兎です。
この作品を読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけますと幸いです。
ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。
ここで、私は今後の生活において、重要になる設定を仕込んでおくことにした。
「マリー、わたくし……」
いかにもか弱く無垢なフリをして、私は上目遣いでマリーを見つめながら言った。
「あまり深刻にならないで欲しいのだけれど、一度に色んな事があって混乱してしまっているのか、今までの記憶が大まかにしか思い出せないみたいなの。
負担をかけてしまって本当に申し訳ないのだけれど、少しずつでかまわないから、改めて色々と教えてくれるかしら? 」
ジアとは、あの空間でお互いの記憶を共有したが、細かい日常の出来事などは不明瞭であったため、事故の衝撃で記憶喪失になったことにした。
(――これも、ファンタジーの世界ではおきまりの展開よね? マリーに心配をかけてしまうのが心苦しいけれど……ひとまず落ち着いたら、現状の把握と住環境の整備、自分の能力の解析からはじめなくっちゃ!)
「まあまあ、なんてことでしょう……!
心配ございませんよ、マリーに全ておまかせ下さい! ご年齢的にも、そろそろ淑女教育も始めて行こうと考えておりましたので、良い機会かもしれません」
ジアは、今でこそこのような不当な扱いを受けているが、本来はこの国に三家しかない公爵家の長女として将来社交界を引っ張っていく上位の存在なのだ。
さらに、現在の王家にはジアより二歳年上の王太子ルシアン・アウレリウス・ヴァルムントがいる。
よって、年回りが近く、現国王の最側近である宰相を父に持つジアと双子の妹は、婚約者候補筆頭として早々に淑女教育を開始しなければならないのだ。
「お嬢様、体調と相談しながら少しずつお勉強をはじめましょうね」
実はマリーは、ある理由から最上級の淑女教育を教えられる有能な人材であった。
そんな逸材が乳母であり、専属侍女として自分の側にいてくれるこの事実を、私はもちろんのこと、雇い主である公爵家でさえ誰も知らずにいた。
「えぇ、マリーよろしくおねがいするわ。 体調が良ければ、早速明日からでもお勉強を始めたいのだけれど……」
小さなあごに人差し指をあてて、今後の予定をあれこれ考えながらお願いすると、マリーから微かな笑い声が聞こえた。
「ふふ……まるで別人のようですわ。 いままでも、お嬢様は特別なお子様だと思っておりましたが、やはりこの目は間違っていなかったようです」
嬉しそうに微笑んで「では、明日体調が良さそうでしたら、この塔の周辺をお散歩し、お嬢様が思いついたことにわたくしがお答えする日に致しましょう」と、マリーは提案してくれた。
「えぇ、そうしましょう! 楽しみで眠れないかも知れないわ 」
見た目通り、遠足前の幼児のように興奮するわたしに、マリーはまた笑って布団の上掛けを掛け直しながらやさしい声で言ってくれた。
「きちんと休んで、元気にならなければ探検はお預けですからね? 」
マリーが淹れてくれたリラックス効果のあるハーブティーを飲んで目をつぶると、病み上がりのせいなのか、すぐに眠気がやってきた。
(--明日から、少しずつ計画を進めていかなくちゃ! マリーが信用できる味方でホント良かったぁ)
明日からの新生活にドキドキわくわくしながら、私は眠りについた。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めます。
次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。
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