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第七話「目覚めのあとで」

はじめまして、宵月の兎です。

この作品を読んでくださってありがとうございます。 

楽しんでいただけますと幸いです。

ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。

そのあとは、大変だった。


 ジアと記憶を共有しているとは言え、実際に乳母のマリーと会うのは初めてだったので、どう声をかければ良いものかと狼狽えてしまう。


「あの、え、えっと……。

マ、マリー? あなたが助けてくれたの、よね……? ありがとう 」


 大怪我をして死にかけた私が、急に目覚めて話しかけたからだろうか? 

驚いて顔を上げたマリーの濡れた目から、さらに涙が溢れ出して、両手で顔を覆ってしまった。


(--なっ! えっ、どど、どうしよう。 初手からテンション間違えた!?)


 肩を振るわせながら、マリーはベッドサイドで泣き崩れた。


(--ジアは、マリーとしか会話やコミュニケーションをとっていなかったはず。 

あぁ……。 せめて、マリーへの接し方だけでも聞いておけばよかった……)



後悔先に立たずである。



 内心で焦りまくる私だが、実はジアの表情筋は完全に死んでいて、マリーの目にはいつもの無表情なジアが映っているだけなのだが…新米ジアの私は、その事実を知る由もない。



「お嬢様……! すぐにお助けできず、大変申し訳ございませんでした」


 マリーは、泣き顔のまま、私が母に襲われた時の事を教えてくれた。



 その夜はいつもと違い、ジアの寝支度を整え、ベッドに入るのを確かめてから、マリーはある理由があって、明かりもない夜闇の中、大急ぎでシーツを洗いに本邸の洗い場まで行かなければならなかった。



 なぜなら、この塔にはあらゆる物資が不足しており、とくにリネン類は替えがほとんどなかった。


毎日洗って干さなければ、翌日の替えが効かなくなってしまうのだと、マリーは申し訳なさそうに肩を落とした。



 「それにしても、なぜ夜中に行かなければならなかったの? 」



 そう私が問うと、明らかに動揺した様子のマリーから

「――え? えぇと、その……」と、何とも歯切れの悪い返事が返ってきた。


 これは怪しいと思った私がさらに追及すると、渋々といった様子で彼女は語った。


「わたくしは、本邸の使用人から≪呪われた侍女≫として冷遇されているのです」


 そう言うマリーは悔しそうに俯き、メイド服のスカートを両手でクシャリと握りしめた。


 その日の昼間、いつものように他の洗濯メイド達がいない時間を狙って、洗濯場に行き、隅の方で洗濯をしていた。


 そこへ、いつもマリーに嫌がらせをしてくる公爵夫人の部屋付きのメイド達がやってきて、あれこれと難癖をつけて絡んできたのだそう。 


 沈んだ気持ちを抱えながら塔に戻ってきて、いざ洗濯物を干そうと広げたところ、シーツにインクのシミがベッタリと付いていたのだそうだ。


(――ヒドイ! 本当に腹が立つ!! タイミング的にも、これはあらかじめ計画されていたんだわ)


 邪魔なマリーが私の元から離れた隙を突いての、計画的犯行だったのだ。



 その時、黙って俯いたままのマリーが、暗く呟くような声で言った。



「わたくしは、万が一にでもこのままお嬢様が目を覚さないなどと言う事になれば、奥様と差し違えてでも必ずや仇を取り、お嬢様がいるあの世へお供すると決めておりました」


 マリーはそっと顔を上げ、泣き腫らした赤い目で私を見つめそう言ったあと、


「ですが、またこのようにお嬢様の愛らしい声を聞くことができて、わたくしは心の底から嬉しく思います」


 そう言って私の手を握ったマリーは、慈しむような笑顔を見せてくれた。


(--よかった。 ジアを愛してくれている人が、こんなに近くにいてくれたのね)


「……ありがとうマリー」



 ほっと胸を撫でおろしつつ、私はどうしてもマリーにひとつだけ言いたいことがあった。


最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めます。

次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。

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