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第六話「約束」

はじめまして、宵月の兎です。

この作品を読んでくださってありがとうございます。 

楽しんでいただけますと幸いです。

ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。


お互いの距離が縮まったことに私自身素直に感激しつつも、今後のことも話し合う必要があると考えた私は、ジアに問いかける。


「ジア、これからどうしたい? ここはジアの世界で、おそらくこの不思議な空間もジアのもの。

だから、いつまでも私がこうしてはいられないと思うの」


「そ、そんな!」


途端に、ジアの表情が恐怖に凍りついた。


 彼女は震える小さな手で口許を覆い、痛みを堪えるようにして続ける。

 

「栞、例えそうだとしても戻れないわ。 

……いいえ違うわね。 正直に言うと、わたくしもう戻りたくないの。  あの時確かに、あのバルコニーでわたくしは『これで楽になれる、やっと死ねる』と思ってしまったのだもの」


――あのバルコニーでのこと、ジアも体験していたんだ!


 ジアは「もし戻ったとすれば、迷いなどなくすぐに自ら死を望んでしまうだろう」と幼い容姿には似合わない、自嘲するような微笑みを浮かべながら教えてくれた。


「そんな……。」


 でも、私にもその気持ちはわかる。もう、ジアは限界だったんだ。 地獄のような日々の中で、一瞬でも『自由になれる』そう思った気持ちを忘れることなんて出来るはずがない。


「栞、そんな悲しい顔をしないで」


 私のお腹に顔を埋めるように抱きつき顔を上げたジアは、苦笑にも泣き顔にも見える切ない表情で私を見つめる。


「聞いて。 わたくし、毎晩夢の中で声が聞こえるの……とても優しくて、なぜだか懐かしい声が。 

その声がね、言うの。

『汝の肉体と共鳴するもう一つの魂が現れる。 その時、汝の魂は解放され、新たな魂と一つとなり、輪廻の輪によって生まれ変わるだろう――』って」


「え、それってもしかして」


「おそらく、栞のことだと思うの。 でも、わたくしの代わりに栞があの塔に戻るなんて……今度こそあの女に殺されてしまうかも知れないわ」


「どうしたらいいの――」そう顔を憎しみで歪めながら言った彼女を見つめながら、私は不思議な気持ちが沸いていることに気づいていた。


 私がずっと求めていた存在。 私を心から信頼し、心から心配してくれる存在がこんな形で現れるなんて、誰が想像できるだろう。 こんな、説明がつかないような謎の空間で、明らかに容姿の色彩が私の世界のそれではない少女と心を通わせているなんて――


〝まさに、小説の中のお話みたい〟


――えっ? 


自分の考えに震えた。


『ちょ、ちょっと待ってよ。

嘘でしょ?  でも、もしかして…?』


点と点が線で繋がったように感じた。 


 心臓が耳にあるのかと思うくらい激しくドクドク鳴って、思わず全身が震えてしまう。


――だって、だって! 私もずっと祈ってた! 

「愛されたい」「特別になりたい」って。


 それは、私が長い年月心の底から祈っていたこと。 成長と共に簡潔になっていったが、根っこの部分はずっと変わらず、間違いなくジアが星に願ってた事と同じだった。 その事実だけでも、ジアとの運命的な繋がりを感じる。


――これってもしかして、ファンタジー小説の世界なんじゃない? だって今わたしの存在って、異世界転生主人公ど真ん中のような……


 またしても、感情の揺らぎによって私の体の中で飼い慣らしていた熱が暴れ出す。 


  思考が一気に冴え渡り、世界が輪郭を取り戻していく。


――いや、いっかい落ち着こう!


 興奮で頭が今にも爆発しそうなのに、どこかで冷静な自分が『俯瞰しろ』と囁く。


――この仮説が本当だとするなら、私たちに不可能はない。 ジアにも私にも、不思議な力があるみたいだしね!



 私は思考を一旦整理して、なんとか落ち着こうとした。 


--思考は冷静、心は熱く……だったっけ?


 身体中を正体不明の熱が暴れ回り、興奮がなかなか収まらない。


それを無理やり飼い慣らし、胴体へ押し込むことで頭を冷やした。


 ひとつ深呼吸をしたところで、心配そうに私を見つめるジアに向き合った。


「大丈夫だよ。

ジアが許してくれるなら、私があなたとして生きる。

そして、全部ひっくり返してみせる! 

ジアが星に願った事は、全部私が叶えてあげるから」


 私がそう断言すると、

ジアは「え、えと…… 」と不安と期待な入り混じった表情で瞳を揺らした。


 念を押すように、私はジアの肩をガシッと掴んで続ける。


「ジアが本来手に入れるはずだったもの全部私が取り返す! ジアが見たかったもの、味わいたかったもの、愛情も友情も自由も……!

 私が全部叶えてあげる。 だから、ジアは安心して私のところに還ってきてくれればいいの。

必ず、私の元に帰って来てね? 家族は"帰る場所"なんだから 」


 大きな瞳を驚きでまんまるに見開き、呆気にとられていたジアは、私の言葉の意味を理解した瞬間、両手で口元を覆い、今まで見た中で一番の輝いた笑顔を弾けさせた。


「わ、わたくし! 絶対に栞のもとに還ります!

ぜったい絶対、約束よ。 それで、それで・・・・・・』


 私の想いが伝播して、ジアも両手で握りこぶしを作りながら、一生懸命わたしに伝えようとしてくれる


「次に生まれ変わったら……! 

その時には、栞にわたしに名前をつけてほしいの」


「もちろん! 

とびきり可愛い名前を考えてあげる!

その代わり、これからは一緒に楽しい事をたくさんするんだから、早く帰ってきてくれなきゃだめだよ?」


二人で泣きながら笑い合い、お互いをぎゅっと抱き締めた。


その瞬間、二人は眩い光に包まれる。


――その時が近づいてるの?


 私たちは、向かい合ってお互いの両手を強く握り、その姿を目に焼き付けるように見つめ合った。


お互いに、この姿で逢うのはもう最後になってしまうとわかっている。


「じゃあ、ジアいってらっしゃい。 ずっと待ってるからね! 」


「ありがとう栞。 

でも、辛くなったら心の中で必ずわたしを呼んで欲しいの。 どんな形ででもわたくしが助ける……!

絶対よ、約束!」


 ジアはこれから長い眠りにつく。 


 これは『死』などでは決してなく、魂はそのまま、蛹から羽化する蝶のように、新しく生まれ変わる準備なのだ。


 私たちは、目を開けていられないくらいの光に埋め尽くされ、意識が遠のいていった。


 そして、もう一度目覚めるのだった。


 ゆっくりと瞼を開くと、見慣れない天井が目に入ってきた。 私は、見覚えのある小さな両手を目の前にかざして"私"の形をしっかり確かめる。


ふっと、窓から吹き抜けたやさしい花の香りが、

風に乗って鼻腔をくすぐる。


――あ、またこの花の香り


 ついさっきの出来事のはずなのに、感覚的な懐かしさに胸が締め付けられる。


 私は小さく微笑み、目を閉じて一度だけ深呼吸をする。


この世界は、私に何を求めているのだろうか?


その答えを知るのは、まだ少し先になりそうだ。




最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めます。

次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。

感想はいつでも大歓迎です。

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