第五話「家族のカタチ」
はじめまして、宵月の兎です。
この作品を読んでくださってありがとうございます。
※暴力描写があります。
ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。
照れくささを隠すために、少女の隣にスルっと移動して、頭を柔らかく撫でながら話しかけた。
「私は『栞』って言うの。 あなたのことも名前で呼びたいな。 せっかく家族になったんだから、名前で呼び合おうよ」
私がそう提案した途端に、カバッと私から身体を離した少女は、嬉しさ半分、戸惑い半分といった様子で瞳を揺らし、もじもじしながら私を見つめ返して言った。
「わ、わたくし…今まで名前がなくて」
しょんぼりと肩を落とす少女。
彼女曰く、このヴァルムント王国では、『黒髪に黄金の瞳を持つものは災いをもたらす』という言い伝えがあり、その色を持って生まれた者は皆、生後すぐに問答無用で処刑され、その生家もなんらかの罰を与えられているそうなのだ。
「そのような言い伝えがあるのに、なぜ自分が生き残っているのか…。 ですからわたくしは、今まで関わりのあった本邸の者たちからは『アレ』とか『おい』と呼ばれいて――」
暗い海に沈んでいくような絶望を瞳に宿しはじめる少女を見ていられない私は、無意識に身体がが動いていた。
――せっかくの可愛い笑顔が台無し! ほんっと、ろくでもない親って、どこの世界でもやっぱり最っ低!
記憶で見た本邸の人間たちの顔をひとりひとり思い出し、心の中で自分が知りうる限りの呪いの言葉を浴びせながら辛い体験を語ろうとする小さな口をパッと両手で塞いだ。
びっくり顔で見つめてくる彼女に向けて、咎めるように首を振りながら口から手を放し、「変なこと思い出しちゃダメでしょ」といじめっ子の笑みを浮かべながら、可愛いまん丸おでこに人差し指でデコピンした。
少女は「――あうっ!?」と声を漏らしながら、デコピンされたおでこを押さえてオロオロしていた。 あまりに可愛い反応に、私はまた『ぷっ』と吹き出して笑ってしまった。
少女は、私が急に口を封じたので『怒っている』と思ったのか、泣きそうな顔をしていたけれど、私が吹き出して笑いはじめると、ほっとしたように肩の力を抜いて、おでこを擦りながら少し照れたようにはにかんで、もじもじしていた。
「ねぇ、自分ではどんな名前がいいとかないの? 」
少女は少し考えるように一旦俯いたが、パッと顔をあげた時には覚悟を決めた目をしていた。
「本当の家族は『どんな時でも味方になり、一緒に乗り越えてくれる存在』 と以前本でよんだのだけれど…それは本当なのかしら?」
「うん、うん。 きっと本当の家族ってそうだよね」
私も、『真の家族』とはそういうものだと認識している。 現実は伴わなかったが。
「じゃあ・…栞さま、わたくしのお話し聞いてくれる?」
「うん、もちろん! 」
「わ、わたくし…夢の中で毎日のように声が聞こえるの。 その声たちが、いつもわたくしをこう呼ぶの。 『わたしたちの愛しい子』『宵の明星』『ぼくたちのオーレジア』と――」
少女は、声が尻すぼみになりつつも、一生懸命話してくれた。 そんな彼女は、話し終えると不安そうに指先をもじもじと動かしながら上目遣いで私の反応を伺っている。
――その声の主…
バルコニーから落ちる瞬間、私の耳にも小さな声が聞こえていた事をふと思い出した。 その存在に若干の引っ掛かりを覚えながらも、ジアに告げた。
「たぶんそれは、あなたの真名なんじゃないかな? 」
少女は驚きで目を真ん丸に見開き固まった。 賢いこの子のことだから、たぶん自分でも、薄々気付いてはいたのだろう。 真剣に私の話に耳をかたむけてくれた。
「魔法使いには『真名』があると聞いたことがあるでしょう? それは、偉大なる存在が魂に直接呼びかけ授けてくれる、特別な名前だそうよ。 『オーレジア』――宵の明星。 うん、美しい響きがあなたにぴったり。 」
まさか自分の荒唐無稽な話を信じてもらえるとは思っていなかったのだろう。 オーレジアは驚いた表情をしたあと、名前を褒められて照れているのか、赤くなった頬を両手でおさえながらはにかんでいた。
微笑ましく見守っていると、やがて私を真っ直ぐに見つめてきた。
「ねぇ栞さま…『栞』って呼んでも…いい、かしら? 」
――ぐはっ! な、なんだこの可愛い生き物――っ!
可愛すぎるおねだりに悶えつつ、お姉ちゃんとしてなんとか表面上は平常心を装う。
「もちろん! じゃあ、わたしは『ジア』って呼んでもいい?」
ぱーっと、花が綻ぶようにジアが笑顔になった。
――ジアがよろこんでくれてよかった……!
名前を呼び合うだけで、不思議と心が満たされていくみたい…。
私は、自分の心もポカポカと温かくなるのを感じていた。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めますので、次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。
感想はいつでも大歓迎です。




