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第四話「あなたと私」

 はじめまして、宵月の兎です。

この作品を読んでくださってありがとうございます。

※暴力描写があります。


ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。


 

 私は、導かれるように、声のする方へ近づいていく。


――あ!


そこには、声の主であろう幼い少女が、膝を抱えて泣いていた。


――なんて小さな背中……どうして泣いてるんだろ?



 声を掛けようと、少女の華奢な肩に私の指先が触れた瞬間、雷に脳天から全身貫かれる様な衝撃を感じた。


その直後、私の脳内に身に覚えのない記憶が、映画のエンドロールの様に一気に流れ込んできた。




彼女は『アレ』と呼ばれた少女。


 ある嵐の夜、国内に三家しかない公爵家のひとつ、シュヴァルツェンベルク公爵家に待望の双子が生まれた。


 だがしかし、一人目の女の子が大きな産声をあげながら生まれたその瞬間、その場にいた誰もが驚愕し、恐怖に震え、言葉を失った。


 彼女は『特殊な容姿』をもって生まれてきた。


 この国では、その容姿を持つものは大きな災いを呼ぶ『忌み子』とされ、穢れた存在として恐れられていた。


 生まれた赤子は名前すらつけられることなく、国にその存在を知られることもないまま、公爵邸の広大な敷地の端にある打ち捨てられた薄暗い塔に、同じく哀れな乳母と共に押し込まれた。


 その日から彼女は、家族の愛を知らないどころか、実の母親から命を狙われ続けるという残酷な日々をおくっていた。


 一緒に塔に送られた乳母のマリーが必死に助けてくれるけれど、この心優しい乳母が両親ではないことに傷つき、蝕まれる心。


 塔の窓から見えた本邸の庭園で、可愛らしいドレスで着飾った、自分と同じくらいの小さな女の子が仲睦まじく両親と手を繋いでいる姿を見て、自分の現実との違いに胸が締めつけられる苦しい日々……。



 私と彼女のすべての記憶や感情が繋がって、自分の中に溶け込んでいった。


――わたしをひとりにしないで! 

 ねえ誰か…私を愛して!


 気がつくと、わたしは泣いていた。


 他人の記憶が一気に流れ込んできたことで、脳が焼き切れそうなくらい熱を持ち、割れそうなほどの頭痛がしている。 感情の制御が効かずに、泣いている感覚もなく涙が止まらなかった。


 それでも、この悲しい記憶の持ち主である彼女が心配で、頭よりもさらに痛む胸を押さえながら、怖がらせないようにそっと目線を合わせ、膝を抱えた少女に話しかけた。


「ねぇ、大丈夫? 」


 その少女は、急に聞こえた声にはっと顔を上げ、涙で濡れた瞳をわたしに向ける。


 涙で濡れた頬は、透けるように滑らかな乳白色で、上質な黒真珠のように神秘的に輝く豊かな黒髪は、緩くウェーブしている。 何よりも目を惹くのは、揺らめくオーロラと星屑の煌めきを内包したインペリアルトパーズの大きな瞳だ。 


――こんなに美しい子、今まで見たことない


 あまりにも美しい容姿を目の当たりにして、私は完全に見惚れてしまった。


 話しかけてきたくせに、自分を見つめて呆ける私を警戒した少女は、何も喋らず戸惑いにその瞳を揺らしながら、ゆるゆると首を横に振った。


――あ、美幼女に見とれてぼーっとしちゃった!



 なんとか意識を取り戻した私は、目の前の少女を安心させてあげたくて、笑顔で話し続けた。


「あなたにも分からないんだね。もしかして、私たちお互いに一人ぼっち? 」


 笑顔でゆっくり優しく話しかけても、目も合わせてもらえず、むしろ怖がっているのか捨てられた仔犬のようにプルプルと怯える姿が痛々しい。


――これ、安心して欲しいのに余計に警戒されてるやつ!


 なんだか自分が、事件の再現ドラマでよく観る、いかにも怪しい誘拐犯のように思えた。そうしたら、急にこの情況が面白くなってしまい、思わず吹き出して笑ってしまった。


――あぁ、余計怪しいよぉ! 

 ふふっ ――ヤバイ、だめだツボる!


 少女は、急に何の脈絡もなく『ぶふっ』と噴き出してお腹を抱える私を見つめて、驚いた顔をしていた。 まんまるに見開かれた瞳が本当に美しいのと、呆気にとられたような顔でこちらを見つめてくる彼女があまりにも可愛くて、やっと落ち着いてきた。


そして私は、先程見た記憶の中で起きていた、彼女の境遇を思い出してみた。


――そっか、あまり人と会話をしたことが無いんだったね。


 思い至ってしまった事実に内心で肩を落としながらも、私は一瞬見えた少女のその瞳に、僅かに私への好奇心が宿っているのを見逃さなかった。


改めて少女の向かいに座って、もう一度ゆっくり話しけてみる。


「驚かせてごめんね。 実は私、ずっと一人ぼっちなの。 だから、もしよかったら仲良くして欲しいな。 友達にしては年が離れすぎているから、姉妹みたいに仲良くしてくれるとすごく嬉しいんだけど――」


『どうかな? 』と首を傾げつつ問いかける。


 少女は俯いていたけれど、その美しい瞳を溢れそうなほどに見開き、一瞬嬉しそうに表情が輝いた。 しかし、すぐに痛みを堪える様に表情を曇らせ、胸元をぎゅっと握りながら言った。


「で、でも・・・あなたは、わたくしのことを何も知らないから――」


 弱々しくか細くて、愛らしい声だった。


「ううん、私はあなたを知ってるんだよ。 そして、あなたも私を知っているはず」


 少女は驚いた顔をしながらも、すぐに何か思い当たったのか『ひゅっ』と息を呑んで顔を上げ、しっかりと私を見てくれた。


 視線と視線がぶつかり合った瞬間『キーンーー…』と耳鳴りのような音が頭の中に響いた。


――私たち、今確かに『繋がった』


 しばらく音と感覚の余韻に浸っていた少女に、私は改めて話しかけた。


「提案なんだけど、私たちお互いに家族に恵まれなかったじゃない? だから、今から私があなたの家族になるって、どおかな? 」


 私はもう一度幼女に微笑みかけ、柔らかく手を握って返事を待った。


「ほ・・・ほんとうに?」


「もちろん!」


 少女は、両手で私の手ごと祈るよう胸の前で指を組んで言った。


「わ、わたくし――ずっと、ずっと夢みていたの。 『家族がほしい」って。 何度もお星さまにお祈りしていたわ。 でもね、どんなに祈っても叶わないのだと諦めかけていたの。 今日のお祈りを『最後』にしようと思っていたのよ。 ――まだ、夢を見ているんじゃないかしら… 」


 涙を浮かべて、少女は私に、蕩けるような笑顔を向けてくれた。


 記憶を含めても、生まれて初めて本当の笑顔になった彼女に笑顔を返しながら、私自身にも生まれて初めての感情が沸き上がってきていた。


 昔から一度も埋まることのなかった、胸の奥にぽっかりと開いた大きな穴が、名前も知らない目の前の少女との出会いで、ゆっくりゆっくり満たされていきそうな予感がしている。


 幸せに慣れていない私は、この感覚に少し戸惑っていた。



 最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めますので、次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。

感想はいつでも大歓迎です。


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