第十一話「ふたりは」
はじめまして、宵月の兎です。
この作品を読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけますと幸いです。
ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。
とりあえず今日のところは、質素なスープとパン相手にマナーも何もあったものではないので、マナー講習は明日の朝食から実施する約束をして、マリーと小さな食卓を囲んだ。
私は、とにかく硬いが"味の向こう側"を感じる黒パンをムッシムッシとむしって口に運びながら『住環境改善プラン』を頭の中で組み立て、TODOリストを作成していた。
同時に、惚れ惚れするような完璧な所作で質素な食事を優雅に口に運ぶマリーに見惚れつつ、現状を知るべく次々と質問していく。
「ふむふむ、食事はマリーがこの塔の厨房で作ってくれているのね。
では、食材はどうやって確保しているの? 」
「パンは、毎朝本邸の厨房で一日分をもらっています。 お野菜はその……じ、実は裏庭でわたくしが栽培したものや、近くの農家が分けてくれた野菜を使用しているのです。 」
なんとも申し訳なさそうに、渋々といった様子でマリーが白状した。
他にも色々と教えてくれたところによると……
この公爵邸があるのは、
ヴァルムント王国の王都である【アーデン】。
この、王都アーデンは前世の南イタリアにある要塞都市オストゥーニのような地形で、一番高い位置に王族が住まう王城がある。
その王城をぐるりと囲むようにして、貴族が生活する貴族エリアがあり、さらにその外側には、平民が住む城下町エリアがあるそうだ。
貴族エリアと城下町エリアの間には、『ウォール・リュクス』と呼ばれる真っ白な城壁があり、門兵が城門を護っている。
貴族が城下町を訪れるのは比較的簡単で、家紋の紋章を城門で衛兵に見せれば良いだけなのだが、平民が貴族エリアに入るのはかなりハードルが高い。
平民は、基本的に立ち入りが厳しく制限されている。 貴族家に仕える通いの使用人は、勤め先の貴族家の家紋が彫られたピンバッチを身につけ、同じく貴族家と取引のある商会の商人は、商人ギルドで発行される認可商人の通行証を提示する。
その他には、王国内に六組しかいないAランク以上のパーティに所属する、個人ランクB以上の冒険者たちだ。 彼らの場合は、冒険者ギルドが発行するギルドカードを城門で提示する必要があるそう。
「ちなみに、Sランク冒険者のギルドカードは、なんとあの『ミスリル』で出来た、この大陸で最高ランクのカードなのですよ!」
めずらしく興奮気味に教えてくれたマリーは、私が呆気に取られている様子に気づくと『コホン』とひとつ咳ばらいをし、浮かしかけた腰をストンと椅子に戻した。
何事もなかったように澄ました顔をした彼女だったが、その耳は真っ赤に染まっている。
なんでも、王都に居るSランク冒険者パーティのメンバーの中に知り合いがいるそうで、その人はもともと、先の戦争で親を亡くした戦争孤児だったそうだ。
実力でAランク冒険者にまで成りあがったのだと、自分の事みたいにちょっぴり誇らしげに話してくれるマリーが可愛い。
そして話は戻って、マリーは食料や物資の調達についても教えてくれた。
「数年前から、月に1~2回だけ市街地にこっそりと買い出しに行っているのです」と、少し恥ずかしそうに。
彼女によると、ジアが成長したことで、ほんの少しの時間なら一人にしても大丈夫だと判断し、コツコツと縫い貯めた刺繍のハンカチや手作りのポプリなどを、顔なじみになった雑貨屋に売ってお金を稼ぎ、不足している日用品や食料品を買っているという。
今から、ちょうど一年ほど前。
マリーは買い出しに向かおうと城門を抜け、メイン街道から少し脇道に入った林の中に、たまたま傷薬に使える薬草が群生しているスポットを見つけた。
嬉しくなってつい夢中になりすぎてしまい、かなり奥まで入り込んだところではっと気付いて振り返ったのだが、もうその時には来た道が分からなくなってしまった事があった。
その時に、たまたま近くで山菜採りをしていた老夫婦に助けられ、家の周りの畑で細々と作っているという野菜を分けてもらったのがきっかけで、今も交流は続いているのだそう。
「そのご夫婦から、畑の作り方や育てやすい野菜を教えてもらい、見よう見まねで挑戦してみているのです。」
なんとマリーはすでに、ひとりで裏庭の一角を開墾し、畑を作ったのだそうだ。
「すこしでも食材の足しになればと思い、こっそり庭師のトニーに種を分けてもらったり、ご夫婦に栽培方法を聞きながら育ててはいるのですが……。 お恥ずかしながら、わたくしが畑仕事に慣れていないもので、あまりうまく育たないのです」
マリーは美人ですらりと背が高く、所作も言葉遣いも普段の何気ない身のこなしですら見惚れてしまう、完璧な淑女。
そんな彼女が今『畑仕事が上手くいかない』と落ち込み、ガックリと肩を落としている。
生まれた瞬間から冷遇されている私に、少しでも滋養のあるものをと考え、生まれたばかりの私のお世話をしながら、たった一人でこの塔の内向きの仕事をこなし、今に至っては慣れない農作業まで頑張ってくれていたのだ。
私は、自分の中でマリーに対する信頼と尊敬、親愛の情がぐんぐんと高まるのを感じていた--
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めます。
次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。
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