第十話「新しい朝」
はじめまして、宵月の兎です。
この作品を読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけますと幸いです。
ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。
『——を呼べ。 我の名を呼べ―― 』
(うぅん――だ、誰……? 私を呼んで、る?)
夢と現実の狭間で、私を呼ぶ声が聞こえる。
『選ばれし者――我を求めよ。 我が名を呼べ。 』
(はやく、早く答えてあげなきゃ……)
その声に導かれるように、私は目を開けた――
◇◇◇
「――お嬢様……? お目覚めですか? 」
心配そうに私の顔を覗き込むマリーと目が合った。
「……はれ? マリー? おはよう 」
(――んん……あれ? さっきのって、夢?)
「おはようございます。 お顔をお拭きいたしますね 」
ほっとしたように微笑みながら、マリーがボウルに入ったお水で手ぬぐいを濡らしてそっと目元を拭いてくれた。
(――つめたくて気持ちいい……って、あれ? 私ったら泣いていた? )
「ま、マリー? 今何時かしら? 」
なんとなくちょっぴり恥ずかしかった私は、何事もなかった風を装い、なんとかマリーに話しかけた。
「あと半刻ほどで昼食のお時間でございますよ。 」
「えっ!?」
(……ね、寝坊した!!)
「も、もうそんな時間なの! ごめん、なさい……。 」
私は両手で顔を覆い、指の間からチラッとマリーを伺う。
昨日あんなにわくわくした気持ちで眠りについただけに、寝すぎて半日を潰してしまったというのはかなり恥ずかしい。
「問題ございません! お身体が疲れていた証拠でございますもの。 さあさあ、身支度をして昼食を食べたら、お約束通り塔の周りをお散歩されますよね? 」
困ったような優しい笑顔でそう言ってくれたので、ふぅーっと安堵のため息を吐き出した私を見て、マリーが「ふふっ」と思わずといったように笑いだしたので、つられて私も笑ってしまった。
「ええ、もちろん行くわ! とっても楽しみね! 」
くるぶしまである生成色のゆったりした寝巻から、シンプルな薄水色の麻のワンピースに着替えさせてもらい、マリーが用意してくれた窓際の小さなテーブルに着いた。
メニューは、硬いパンと具の少ないスープ。
(――悪役令嬢に対する嫌がらせの定番ね。 寝間着と変わらない質素なワンピース! スープに浸せばギリギリ喉を痛めず飲み込めそうなカチカチの黒パン!)
「あーもぉ、むしろベタすぎて尊い……」と一人で呟きつつ、若干の感動(?)を覚えながらゆっくり黙々と平らげていく。
「お嬢様、本日は食欲がおありなのでございますね! よかった。 」
マリーが嬉しそうに声をかけてくれる。
そこで、ふと疑問がわいた。
「ねえ、マリー? あなた昼食は食べたのかしら? 」
マリーの表情が、一瞬ピシッと固まったのを私は見逃さなかった。
「もおっ! マリーったらそもそも朝食すら食べていないのではなくて? 昨日言ったはずよ、わたくしを大切にするのと同じく、自分も大切にしてと 」
引きつった微笑を貼りつけ誤魔化そうとしたマリーだったが、怒りつつも瞳に悲しみがにじむ私の表情を見て、わたわたと慌てだした。
マリーはおそらく、今までずっと自分の食べる分を減らしてでもジアに食事を用意してくれていたのだろう。
そもそも、彼女は厄介払いとしてこんな私のお世話をさせられているのだから、本邸に食事を用意されているなんてことは、おそらくないと想像できる。
『わ、わたくしは平気でございますよ! 』と答えたマリーの目が泳ぎまくっている。
それを『はい、そうですか』と見逃すような私ではない!
「昼食がまだなら、お給仕はいいから一緒にいただきましょう? 一人じゃ寂しいもの。 」
潤んだ瞳で上目遣いにマリーを見つめ、訴えてみた。
「い、いけません! 使用人と主人が食卓を共にするなどマナー違反です 」
(――チッ。 美幼女のあざといおねだり作戦は通じなかったか! それなら…)
「では、私のマナーの先生として、毎食お客様の役を演じて実践指導してちょうだい。 そうすれば、マナーのお勉強になるし、お食事の準備やお片付けも一回で済ませられて一石二鳥だわ。 」
かなり強引にではあったが、渋るマリーを説得して可能な限り一緒に食事をとることを約束させることに成功したのだった。
(そもそも! こんな、お腹を満たすこともできない量の食事じゃ、私はもちろん大人のマリーには全然量も栄養価も足りないよ! 畑を作るのは大前提だけど、早急に森にも行って、最低限の食料は確保しなくっちゃ!
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。少しずつ物語が動き始めます。
次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。
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