第一話「プロローグ」
はじめまして、宵月の兎です。
この物語は、自分の居場所を見失った少女が世界と向き合い成長して行くお話です。
少し重たい描写もありますが、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
――それは、音とも光ともつかない
まさに奇跡だった--
大地は歓喜に震え、草花は美しい調べを奏で、夜空の星々は大海原を照らすように輝きを増し、幾千万の光の飛沫が、世界を祝福の色に染め上げた。
◇
数多の精霊が守護し、繁栄を極めた国――ヴァルムント王国。
絶対の威を誇る霊峰グレイト・ヘイヴンは
「竜の雫」と呼ばれる湖を抱き、自然の要塞として周辺諸国の侵略を拒み続けてきた。
精霊たちは儚く純真な人間を愛し、小さな隣人として寄り添った。
精霊の恩寵を賜った大地では、どんな植物・農作物も良く育ち、霊峰に連なる山脈からは、常に清らかな水が滾々と湧き出す。
人々は、凶作で飢えることも、疫病に苦しむこともない……まさに王国の黄金期を生きていた。
――しかし、長すぎる繁栄の時代は、徐々に人々の心を鈍らせていった。
どれだけ繁栄を極めた文明であっても、人々が心の純真さを失ってしまってはお終いなのだ。 いつだって、傲慢で浅ましい人間の心が国を壊すのだから。
建国から三百年程、ヴァルムント王国も自国内の繁栄では飽き足らず、次第に周辺諸国への侵略戦争を繰り返すようになっていった。
彼らは精霊を『使役』し、古代魔法を振るわせ、圧倒的な武力で次々と他国を蹂躙した。
そうして滅びた国の民たちは奴隷とされ、鉱山で命を削り、拷問の果てに研究材料にされ、女子供は性の地獄に落とされた。
とうとう彼らは、同じ人間を家畜以下のものとして扱うまでになってしまっていた。
――時は流れ、王国に精霊は存在しなくなり、人々は精霊と友愛を結んだあの時代を、お伽話の中の出来事としての認識しかもたず、信仰も廃れていった。
代わりに、破滅を呼ぶ黒い影が少しずつ人々の心に巣喰い広がった。
初代の偉大なる王の子孫達は、精霊がいなくなった事を他国に知られない為、『古きを捨て新たな未来を!』と声高に貴族達を煽り、過去の重要な歴史も全て封印してしまった。
彼らは何も分かっていなかったのだ。
人間の数百年など、精霊達にとっては一瞬の瞬きの様な時間だということを。
精霊たちが『人間』を愛したのは、ほんの気まぐれだったのだということを。
ヴェルムント王国は、まさに夢幻卿
愚かな人間たちは過ちを繰り返す。
精霊王と最初の友愛を結んだ、初代の偉大なるヴァルムント王が残した
『建国紀』の存在すら忘れてしまうほどに--。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
少しずつ物語が動き始めますので、次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。
感想はいつでも大歓迎です。




