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「本日よりお世話になります、フィオラ・ナラーシュです。皆様どうぞよろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げると、目の前に並んだ先輩魔法師たちはこぞって笑みを零す。一先ず歓迎されているようで安堵した。


私は予定通り騎士団に魔法師として入団することになり、今に至っていた。


ちなみに私のラストネームは偽名である。あまり呼ばれることはないだろうが、気を抜くとついそのことを忘れてしまうため気を付けなくてはと思う。


「彼女は王都の外れの孤児院で暮らしていたのですが、魔法の才が飛び抜けていたため私がスカウトしたのです。どうやら魔法師のトップになる、と意気込んでいらっしゃいました」


くすり、と笑いながら言うエレノールに顔を引き攣らせる。


………やっぱり根に持ってたんだ、その事。


実はセイラスにより魔法騎士団に連れてこられたのは3日前のこと。何やら私を入団させるのにも色々手続きがあるらしく、それまでは王都の小さな宿で寝泊まりしていた。


その間にも何回か彼と顔を合わせる機会があり、もちろん謝罪もしたのだがこの有様。どうやらよっぽど私の発言が気に食わなかったらしい。


私の真横に立つエレノールからはひしひしと嫌な視線を感じていた。


「副団長を抜いて魔法師のトップとは、とんでもねぇな嬢ちゃん」


エレノール率いる第一魔法師隊で一番の屈強そうな男が私の前に立ち、ぐりぐりと頭を撫で回した。


「いいか、この銀髪のきれーなお兄さんは怖いんだぜ? 怒ったら魔王みてえになるんだ。せいぜい機嫌を損ねないように頑張るこった」


ははは、と笑いながら言う男に、そのお兄さんを私は既に怒らせているとは言えず死んだ目で頷いた。


「フィオラさんは入団初日ですし、今日は騎士団全体の説明しながら様子をみることにします。それでは各々のやるべき事に取り掛かるように」


エレノールの言葉と共に、集められていた魔法師達は敬礼の後散っていった。そうして残されたのは私とエレノールのみ。


「えっと………もしかして私の案内は、」


「はい、私が直々にしてさしあげましょう」


いつもの笑みを浮かべるエレノールにびくりと肩が揺れる。


嫌だー! 第二の魔王、嫌だ!


「さてと、まずはどこから………おや、顔色が悪いようですがどこか体調が優れないのですか?」


こちらを覗き込んでエレノールはそう言ったが、さっと顔を逸らし首を振る。


「い、いいえっ!? 全然!?」


「そうですか。でしたら良いのです」


エレノールという魔王の視線から逃れ、肩で息をする。


彼の有無を言わせない視線の前では喋ることが精一杯である。もしかしたらそういう類の魔法を常に発動させているのではないか、と疑ってしまう。


「まずは演習場に参りましょうか。ほら、行きますよ」


颯爽と歩き始めるエレノールの背中を追うが、いかんせん歩幅がだいぶ違う。あのすらりとした長い脚に、私の短い足では追いつけるはずもない。


そうして小走りでエレノールに並ぶと、苦言を呈す。


「あの、私とエレノールさんじゃ歩くスピード違うのでその辺りを配慮していていただけると助かるのですが」


「おや、私としたことが。いかんせん、生意気な子供のエスコートには慣れていないもので」


「失礼」と口にするエレノールに飛び蹴りをお見舞いしようかと悩む。


………いや、やっぱりやめておこう。


これ以上喧嘩を売ったら氷漬けにされてしまうかもしれない、と震える。


そう考えている間に、いつの間にか演習場に到着していた。


「魔法騎士団の建物の敷地内には、魔法などの影響が外部に及ばないよう障壁が張られた演習場がいくつかあるのですが、ここはその1つ。この時間は第一魔法騎士隊が使用しているようですね」


エレノールの目線を辿ると、目に見えることはない魔法障壁の内側で土埃を上げる騎士達の姿が見えた。


キン、ガキンッ、という金属同士が激しくぶつかる音共に数々の魔法が炸裂する。


「魔法騎士団は魔法騎士と魔法師で構成された7つの隊が存在します。まずはセイラス率いる第一魔法騎士隊。彼らは剣と魔法を同時に使い、近距離から遠距離まで対応できる技量を持っています。同じように、魔法と剣で戦う第二〜第五魔法騎士隊が存在します」


相槌をうちながら、続くエレノールの説明に耳を傾ける。


「続いて、第一魔法師隊は私が隊長を務める隊です。戦場では前線支援、一部の魔法師は魔法騎士と共に近距離戦闘も行います。第二魔法師隊は治癒魔法師を中心に後方支援を行う隊ですね」


「第一魔法師隊の方は近距離も対応するんですね」


へえ、と声を上げると、エレノールはこくりと頷く。


「私のように魔法騎士の適性を持ちながら、魔法師という役職を選ぶ方も稀にいますから」


そう言い、腰に下げられた剣を私に見せた。


「それにしても」と視線を演習場へとずらす。


「剣の腕前も中々のようですし、魔法の扱いも悪くありませんね」


私の想定より、剣の太刀筋も魔法の使い方も悪くない。コルテヴィアの騎士達を侮っていたが、これは相当かもしれないと感心する。


「フィオラさんも剣に触れたことが?」


エレノールの問いに首を振る。


「いいえ、私はありません」


()()?」


首を傾げるエレノールに苦笑しながら告げた。


「知り合いが好きだったのです。それで見ている内に自然と目が肥えてしまったというか………すみません、素人なのに」


てっきり、「素人が剣に口を出さないでください」とでも言われるかと思ったが、意外にもそういったものはなかった。それを珍しいと思いながら、再び演習場に視線を戻す。


その時、上がる土埃の中出見覚えのある藍色を見つけた。


「あれ、セイラスですよね?」


いつもの騎士服のマントやら徽章やらの装飾を外し身軽になったセイラスが、木刀で次々と他の騎士達を跳ね飛ばしていた。


背後から迫る魔法の攻撃を躱しながら迫り、圧倒的な力で叩きのめす。その姿はコルテヴィア王国魔法騎士団団長の名に相応しかった。


「魔法も使っていないのにあの強さ………とんでもないですね」


「ええ、そうでしょう? 我らが団長は私達とは比べ物にならない程お強いのですよ」


くく、とエレノールは楽しそうに笑った。初めて見るその表情に、彼に対する恐怖が和らぐ。


しかし彼のその姿は一瞬だった。


「私の顔を見てそんなに楽しいですか? 見物料を取りますよ?」


瞬時に変貌するその温度差に頭がやられそうになる。


やっぱり魔王は魔王なのだ。


ひい、と涙目を浮かべてると、こちらに気付いたセイラスが寄ってくる。そして私たちを一目見るなりとんでもないことを言い出した。


「………お前らもうそんなに仲良くなったのか?」


「「は?」」


セイラスの的外れな言動に呆れと苛立ちが募る。横に立つエレノールは理解できない、という顔を浮かべていた。


「セイラスさん、どこをどう切り取ったらそう見えるのか教えて下さい」


「ええ、全くです。貴方のその金色の目はお飾りですか?」


この時ばかりはさすがにエレノールと意見が合致する。それを見たセイラスは「やっぱり仲良くなってるじゃないか」と言う。


「………行きますよフィオラさん。この男と話していたらこっちまで目がおかしくなる」


「そうですね。行きましょう」


くるりと踵を返し、2人揃って建物へと戻る。その姿に、セイラスは小さく笑っていた。




「なるほど、魔法師達の訓練はこのようにしているのですね」


たまにこちらに飛んでくる魔法を躱したり打ち消したりしながらエレノールと会話を進める。


「魔法の使い方や成長の仕方は人によって千差万別ですから、魔法騎士たちのように全体で同じ訓練を重ねるのではなく、各々が各々のやり方で研鑽を積んでいるのですよ」


そう言いながら飛んできた風の刃を指先一つ動かさずに打ち消す。セイラスもそうだったが、副団長という座につくエレノールもかなりの実力者だろう、と横目で彼を盗み見る。


「魔法の仕組みについてしっかり理解出来ているんですね………っと、危ない」


飛んできた大きな岩を魔法で打ち砕く。それ意外にも演習場の四方から、誰かの魔法の流れ弾が絶えることなくこちらに向かってきていた。


「これ、安全面考えられてます?」


「戦場ではどこから攻撃が来てもおかしくないですから、こういった流れ弾を避けるのも実戦に役立つかと」


上体を傾け炎の弾丸を避けながらエレノールは言う。


「だとしても、わざわざ見学するだけなのに私まで演習場に入る必要ありました?」


「おっと、手が滑ってしまいました」


刃のように鋭い結晶をエレノールが弾くと、私に狙い定めまっすぐ飛んでくる。


こいつ、わざとか。


眼前すれすれに魔法障壁を張り、防ぐ。砕けた際に飛び散った結晶の欠片はエレノールの頬を掠めていった。


いい気味だ、と鼻で笑うと、笑みを浮かべた彼の瞼がぴくりと揺れる。


「………どういうつもりで?」


「それはこちらのセリフです。さっきから何なんですか、エレノールさん」


お互いにっこりと笑い、牽制し合う。


「どうやら魔女思い込みが激しいようで。ああ、やだやだ」


エレノールがそう言った瞬間、私の中でぷつりと何かが切れるような音がした。


湧き上がる魔力が空気を揺らし、魔法障壁はみしみしと音を立てる。演習場にいた魔法師達は異常を察知し、わらわらと散って行った。


「………いいでしょう。その鼻につく態度、私が矯正してあげます」


苛立ちに染まった水色の瞳で彼を見上げる。


その言葉を待っていたと言わんばかりに、紫紺の瞳が輝いた。




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