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「王都だー! 久し振りー!」


ガタガタと揺れる馬車から身を乗り出して景色を眺める。目を輝かせる私の姿はきっと、さながら初めて王都に訪れた田舎者の子供に見えるのだろう。


「君は以前も来たことがあるのか?」


向かいに座り頬杖をついてそうセイラスが尋ねる。馬車の窓からは程良く光りが舞い込んでおり、まるで1枚の絵画のよう。全く、これだから美形は。


「生まれは王都だったので」


「………ほう?」


私の返答がなにやら引っかかったのか、片眉を上げてこちらをじっと見る。


やめてくれ、美形は目に毒だ。なんて言えるはずもなく、窓の方にすっと目を逸らす。


ここはコルテヴィア王国の王都シュテフィ。ここは王国のあらゆるモノの中心地となっている地。私が住んでいた魔王の森から転移魔法と馬車で半日。魔法でかなりの距離を移動したため、約2週間の時間短縮である。


「………でも、本当に良かったんですか? 私が騎士団にお邪魔して」


「不都合であれば提案などしていない」


そう、なんと私はセイラス率いる魔法騎士団にお世話になることが決まったのだ。あくまで彼の独断だが。



遡ること半日前。



「………え、私が騎士団に?」


一瞬聞き間違いかと思ったが、どうやら私の耳は正しかったらしく、セイラスは頷く。


「俺は仕事がら魔人と対峙することも少なくない。その時君が居れば、その場で術者かどうか判断出来るのではないだろうか。それに呪いが悪化した時、君が側に居れくれれば何かと都合が良いと思ったのだが」


「なる、ほど………」


確かに彼からしたらそれが一番良いかもしれない。だけどそれは彼の話。私にとっては非常に苦しい提案なのだ。


なぜなら騎士団など私にとっては敵の巣窟。いつ魔女であることがバレて殺されるか分からない。不安と恐怖で私まで悪夢を見続けるのではないだろうか。


でも、それも全ては私の目的ため。ぐっと呑み込み、苦し紛れに承諾したのだった。


「万が一、君が魔女であることが露見してしまったとしても俺が責任を取る。大丈夫だ」


………本当だろうか。


「俺の部下は口が硬い。俺の指示であれば尚更な。だから安心しろ」


私の不安を察したのかそう加える。


「まあ騎士団の方々が一斉に襲ってきたとしても、全て吹っ飛ばせば済むことですしね」


けろりとしてそう言うと、セイラスはどこか複雑そうな表情を浮かべた。


「………見えてきたな」


「え?」とセイラスの方を向くと、彼の視線の先には大きな建物が。


「コルテヴィア王国魔法騎士団本部。君がしばらく世話になる場所だ」


コルテヴィア王国の国旗を掲げ、王都では珍しい広大な敷地に立つ建物。


その大きさに思わず「わっ」と声が出てしまう。


御者に入り口の前に停めてもらい、馬車の扉を開ける。先に降りたセイラスが、降りようとする私に手を差し出した。


「あなた、女性にエスコートするような方だったんですね。意外でした」


「俺はこれでも貴族だ。これくらいは当然だろう?」


その言葉を聞きながらセイラスの手を取り、ひらりと馬車から降りる。


「手慣れているな」


「200年生きているので」


詮索するな、という意味を込めてにこりと微笑む。それが伝わったのか、これ以上訊いてくることはなかった。





「騎士団長殿、お疲れ様です! ………おや、そのお嬢さんは?」


門の脇に立つ見張りの騎士がセイラスに敬礼した後、後ろにいた私を覗き込みそう訊いた。


どうするのか、という意味を含めてセイラスを見上げる。するとことらを一瞥して、見張りの騎士に向かい口を開いた。


「彼女は俺の知り合いの知り合いの娘の旦那のいとこなのだが、しばらく用事で留守にするから預けたい、と」


すらすらとそう言ったセイラスに驚愕する。


いや待ってなにその謎理由! こんな理由で納得させられると思ったの!?


しかし私の予想とは裏腹に、見張りの騎士はセイラスの言葉ににこりと笑った。


「左様でしたか! やはり騎士団長殿はみなから頼りにされるのですね」


え、えぇえー!? 納得した!? 嘘でしょ!?


開いた口が塞がらないとはこのことか、と思う。


そんな私をよそにセイラスは見張りの騎士と一言二言交わし、敷地内へと足を踏み入れる。


「あ、ちょっと!」


慌てて後を追い、彼の騎士服の裾を掴んで非難の声を上げる。


「置いて行かないでくださいよ」


「置いて行ったのではない、お前が来なかっただけだ」


立ち止まり振り返って言ったセイラスにふつふつと殺意が湧き上がる。今更だが、彼とは馬が合わないのかもしれない。


建物の入り口で睨み合っていると、突如セイラスが飛び退いた。


え、やだ。そんなに私の眼力強かった?


彼の行動に疑問を抱いていると、廊下の奥から異様な気配が迫って来るのを感じた。それと同時に、セイラスがその気配とは反対方向に走り出す。


おい待て。だから私を置いて行くな。


「セイラスさん、ちょっと待っ、」


「『ヴァインスピーナ』」


彼の後を追おうとした瞬間、黒い茨が地面を這ったかと思うとセイラスを襲った。


「セイラスさん!」


黒い茨がセイラスの足首を掴み、彼の動きを止める。しかしさらに無数の茨が彼の身体に纏わりついた。


この異常な事態に動揺しながらも、セイラスの身体の茨を取り除くため魔法を行使しようとした時だった。


「セイラス、貴方今までどこに行っていたのです!」


つかつかと廊下の奥から聞こえる靴音に私は動きを止める。そうして現れたのは、騎士団の制服を身に纏い片眼鏡をした男だった。


「………エレノール」


エレノールと呼ばれた男は、ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「溜めていた書類は片付けず、飲み終わった紅茶のカップは机に置きっぱなし。あまつさえ誰にも告げずに2日も外出とはいいご身分ですね。騎士団長の名が聞いて呆れます」


「………別に外出じゃない。ただの散歩だ」


いつの間にか自力で茨の拘束を解いたセイラスが、騎士服についた棘を払いながら言う。しかしエレノールはこめかみに青筋を立てながらセイラスに迫った。


「ほう? 具体的にどこをどう行ってきたか、ぜひ教えていただきたい。2日もかかる散歩のコースを」


そう言い、にっこりと笑みを浮かべたエレノールに思わず私の背筋まで伸びる。


駄目よフィオラ、こういうタイプの人間には関わっちゃいけないって母様が言ってた。そっと、そーっとやり過ごすのよ。


息を殺してそのやり取りを見守っていたのだが、ちらりと私に視線が注がれた。


「それで、先程から気になっていたのですが、彼女はどなたです? まさか、どこかから誘拐してきたのではないですよね」


きらりと光る片眼鏡に内心悲鳴を上げる。200年も生きた魔女がこんな若者にたじたじになっている姿を誰が想像出来ただろうか。


「あ、あわわ、わ、私」


「エレノール」


しどろもどろになりながら話そうとすると、セイラスが私の横に立ちエレノールを制した。


「彼女の件で、お前に話さなければいけないことがある」


ぐい、と私の肩を寄せ、セイラスはエレノールと対峙する。グッジョブ美形。


それを見たエレノールは何やらため息をつき、左目の片眼鏡をくい、と指で押し上げた。


「………分かりました。何やら込み入ったお話のようですし、まずは移動しましょうか」


そして彼がぱちりと指を鳴らした瞬間、目の前の景色が瞬きの間に変貌していた。


ふわりと宙に浮いたような感覚の後、ふわふわのカーペットの上に着地する。


なるほど、転移魔法か。それにしてもセイラスといいこの男といい、さらっとこの魔法使うけど、かなりの難易度なんだよね。今時の騎士は皆これだけの魔法を扱えるのか。恐ろしい。


辺りを見回し、部屋を観察すると魔法で防音効果が施されているのが分かった。ここは来客用の応接室、といった所だろうか。


「お嬢さん、こちらへ」


銀髪の男、エレノールがいかにも高級そうなソファへと案内する。されるがまま座ると、隣にセイラスがどかりと腰を下ろした。


その光景を見ていたエレノールは、じとりとした視線をセイラスに向けた。


「セイラス、この私がまさか幼子を取って食うような真似はしませんよ」


「心外ですね」と呆れたように呟く。しかしセイラスはそれに返事をするでもなく、ただ黙って彼を見つめていた。


「まぁいいでしょう。貴方のその失礼な態度は今に始まったことではないですし」


そう言いエレノールは向かいのソファに静かに座り、再び口を開く。


「それで、貴方が彼女を連れ帰った理由を私が納得できる形でお聞かせ願いたい」


彼は紫紺の瞳をすっと細め、私たちを見据えた。


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