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4.

※ 誤字の修正をしました。


 翌日。すっかり長風呂をして戻ると夜番の警護が交代に向かう時間になっており、ジャックは慌てて布団にもぐりこんだ。目が覚めたのは朝食の時間が終わってしまった後。しまったなーと思いつつ食堂に向かい、適当にいつでも食べられる肉多めのサンドイッチを注文して遅い朝食にすることにした。

 ばれたらケネスに笑顔で小言を貰いそうだなと思っていたところ、騎士様がそんなんじゃもたないよ!!と食堂の奥さんが朝食で余ったソーセージを茹でてくれ、ゆで卵までつけてくれた。ありがたく全て平らげるとジャックは礼を言って食器を下げ、かなり早いが着替えて鍛錬場へ向かうことにした。


「あれ、ケネス。お前も遅番じゃないのか?」


 鍛錬場に着くと、そこには同じく遅番のはずのケネスが鍛錬着で準備運動をしていた。


「そのまま返すよ。早いね?」


 ストレッチの手を止めて起き上がると、ケネスがジャックの方へやって来た。


「いや、何か落ち着かなくてさぁ…」


 昼食の前に汗をかきに来たと言うと、ケネスも肩を竦めて「同じだよ」と笑った。どうもジャックの相棒は勤務外の行動も揃って相棒らしい。


「軽く打ち合う?」

「そうするかー」


 ふたりでしっかりと準備運動をして鍛錬場に場所を取ると、練習用の刃を潰した長剣で打ち合いを始める。鍛錬なので木刀でも良いのだが、木刀だと実戦とはかなり勝手が違うため危険度は上がるがジャックとケネスはこの練習用の長剣での打ち合いを好む。

 一合、二合と切り結んでいくうちにどんどんと楽しくなってくる。ジャックがにやりと笑って仕掛けると、ケネスが目を細めてそれをいなし踏み込んでくる。振り抜かれた剣をあえて正面から受け、また間合いを取って繰り返し切り結ぶ。

 ふたりは第一騎士団所属ではあるが、そもそも剣が好きなのだ。実は、ジャックもケネスも従騎士合格時に第二騎士団への所属を希望していた。残念ながらどちらも伯爵家以上の出自と無駄に良い容姿のせいで第一騎士団所属となったが。


 昼のベルが鳴り響き、ふたりははっとして打ち合いを止めた。勤務前にも関わらずずいぶんと長く打ち合ってしまったようだ。軽く汗をかくつもりがふたりとも汗だくだ。


「あー、やりすぎたぁ…」

「ちょっと楽しくなっちゃったね」


 練習用の剣を片づけ汗を拭きつつ食堂へ向かおうと振り返ると、そこに見知った顔がいた。ヘーゼルの髪を今日は高い位置でひとつに結び、楽しそうに目をきらきらとさせてジャックとケネスの方を見ていた。


「あれ、あの子昨日の」

「リビー嬢だね、確か」


 ぱちりと目が合うと、リビーが嬉しそうににっこりと口を開けて笑った。どうもジャックとケネスに用があるようだ。ちらりと目を合わせると、ふたりでリビーの元へ向かった。


「こんにちは、リビー嬢。今日は何か御用ですか?」


 ジャックが声をかけ、ケネスが軽く礼をするとリビーはぶんぶんと首を横に振った。


「無いです!騎士団の近くに用があったので来ちゃいました!」


 いつでもと仰ってもらったので!とにこにこと笑うリビーに、そういえば昨日「どうぞ、いつでも」と答えたなとジャックは思った。まさか連日来るとは思ってもみなかったが。


「すごいですね!!ルイザ様と先輩も強いんですけど、騎士様の打ち合いとは全然違います!!」


 そう言って楽しそうに笑うリビーにケネスと顔を見合わせると、ジャックは聞いた。


「侍女長様とハリエット様はいつも鍛錬をなさっているんですか?」


 ハリエットの武勇は伝説になっているし、侍女長は元々は第一騎士団所属の騎士だったと聞いている。いざとなれば王妃殿下を守る護衛侍女でもあると聞いているので、なるほど侍女とはいえ鍛錬の時間もあるのだろう。


「えーっと、ジャック様とケネス様みたいなこういう剣でやり合う鍛錬じゃなくて…なんというか…小さいナイフみたいな…暗器?をどれだけ早く投げてうまく遠くの的に当てるかとか、ドレスに隠している武器をどれだけ手早く取って構えるかとか…?」

「暗器…」

「隠し武器…」


 うーん、と言いながら説明してくれるリビーに、それはジャックとケネスが聞いても良いことなのだろうかとジャックは思った。第一騎士団の女性騎士たちもドレスでの護衛の際はスカートの中に剣を仕込んでいる。それと同じでハリエットたちも常時ドレスに武器を仕込んでいるということだろう。


「あ、たまにジャック様たちみたいに打ち合いもするみたいです!私は危ないからって見せてもらえないんですけど、たまに一緒に鍛錬する先輩によると、絶対に近寄っちゃいけないって言われました」


 見てみたいんですけどねぇ、と拗ねたように唇を尖らせるリビーに、それは絶対に止めておいた方が良いとジャックは思った。ドレスに仕込める武器となると限られては来るが、武器など全く使ったことなど無さそうなリビーは何が危険かさえ理解できないだろう。そして護衛侍女はふたりだけでは無いらしい。

 ふっと、ジャックは笑った。あの完璧な淑女と名高い侍女長と、その愛弟子と目されるハリエットが王妃殿下の美しい庭園で日夜暗器を的当てする様子を思い浮かべてしまったのだ。


「素敵ですね。私も見てみたいです」


 そう言って笑うジャックに、ケネスも微笑んで頷いた。口の端がジャックになら分かる程度に震えたので相棒ももしかしたら同じものを想像したのかもしれない。


「そうですよね!きっと赤い髪がきらきらしてとっても綺麗だと思うんです!!」


 きらきらと目を輝かせてリビーが言った。煌々と輝く満月の下、赤の髪を夜闇になびかせて優雅に暗器を構えるハリエットを想像してまた吹き出しそうになったところ、「リビー」と後ろから静かな声がかかった。


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