魔法少女(1歳)
「私と契約して魔法少女にならないかい?」
そう告げたネッシーの何故か少しキリッとした目を見つめて宣言する。
「なるよ、私。にいにを助けてあげられるならなら。——私、魔法少女になる!」
「よし来た!」
ネッシーは大きな翼を嬉しそうに広げる宙を見上げると、これまた大きなクチバシをパカっと開けた。
「受け取るんだ、ミコト!」
クチバシから出てきたのは、長く細い剣だった。まるで芸術品かの如く刃には波打つような模様がある。
私はそれをネッシーの口から恐る恐る引っこ抜く。
「……って重い! ネッシーこれ何!?」
「カタナって言うんだよ。この世で唯一、あべこべ世界に飲み込まれてしまった人を救える剣。
名付けるならそう————光のカタナだ」
「光のカタナ……」
での中で、わずかに光を放つカタナを握り、呟く。
「私に合わせて唱えるんだ」
「何を?」
「カタナの力を最大限に引き出す呪文さ。さあ、準備はいい?」
「——……うん」
そうしてネッシーの言葉をわたしは反復した。
「天地を分け。
光と闇を分け。
朝と昼と夜を巡らせたまえ。
世界に——光あれ」
刹那、光のカタナが眩い光を発した。
同時にもうずく2歳になる私の小さな身体が軽くなった。まるで重力から解放されたかのように。
気づけば、なんだかよく分からないがド派手なピンクの衣装に身を包んでいた。ただやはり赤ちゃん用らしく、ハイハイ歩きにもってこいの形だった。
様子を見ていたネッシーが唸る。
「うーん、これじゃあ魔法少女って言うよりは魔法幼児だけど……」
「……そりゃあまだ1歳と10ヶ月ですから」
というか私赤ちゃんだけど戦えるの?
「そこは問題ないよ」
「勝手に人の心を読むな!」
「ちょっとハイハイ歩きしてみなよ」
「う、うん」
言われるがままに私は手足をバタバタと動かす。
次の瞬間、顔面を強打した。
「イッテエエエ——!」
あ、これ死んだわ。
アディオス人生!
…………
……………………
………………………………
「あれ……死んでない?」
「そりゃあそれくらいじゃ死なないよ。君は魔法幼児……じゃなくて魔法少女なんだから」
「じゃあ魔法少女になればどんな攻撃も効かないってこと?」
「もちろん。そんじゃそこらの攻撃じゃかすり傷ひとつつかないね。それに君自身、今まさに体感したと思うけど、さっきみたいに身体能力もめちゃくちゃ強くなってるはずだよ」
「なんだか都合の良い設定だなあ」
「ってことで戻っておいで!」
「へ?」
「君は魔法少女特典で聴力諸々鍛えられてるからいいけど、流石に部屋の端と端で会話するのは疲れるんだよ」
「こ、これが叙述トリック!?」
とりあえず言われるがままにネッシーの元へまたも爆速ハイハイ歩きで戻ってきたのだが。
「あれ、カタナ軽くなってる!」
「光のカタナが君を主と認めた証拠だよ」
「なるほどこれだけ軽ければ確かに戦える」
「——え?」
「これをこうしてて……」
私はカタナを口に咥える。
「それじゃあ————喰らえ、爆速ハイハイ斬りっ!」
一筋の閃光。地面スレスレに現れた一文字とともに私はお兄ちゃんを斬った。
って、うん?
何してんの?
なんでお兄ちゃん斬ってるわけ?
「これは……やっちゃったか?」
恐る恐る振り返ると、真っ二つになったバケモノ——もといお兄ちゃんの姿が。
そこグロテスクな光景に思わず……
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ——!」
「うっ、うるさーい!」
ネッシーが耳を塞ぐ。しかもそうしている間に、クチバシをバタバタと叩くので、さながら大地震を思わせる爆音が空気を震わせる。
——バダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダ——と。
そのバカみたいな騒音のおかげで恐怖心も次第に収まってきた。
——バダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダ——と。
「てっネッシーうるさい。クチバシ斬り落とすよ?」
「首斬りならぬクチバシ斬りだと!?」
「と言うかネッシー、にいに真っ二つに斬っちゃったけど大丈夫?」
出来る限りお兄ちゃんの方は見ずに尋ねる。
「うーん、大丈夫というかヤバいよ」
「ヤ、ヤヴァイ!?」
「うん、後ろ」
「うしろ?」
瞬間。後頭部にズシンと重い衝撃が走った。
あ、これ、死んだわ。 ※本日二回目。
「だからちょっとやそっとじゃ死なないって言ってるだろ」
ネッシーの声だ。
どうやら生きてたみたい。
まあ、立つことは出来なさそうだけど。
きっと肋骨全部折れてる。
「傷一つついてないぜ」
「マジ?」
「マジマジ大マジ」
改めて目を開けてみる。
確かにどこにも傷一つ見当たらない。
それにまったく痛くない。
「マジか、もうこれ人間じゃねーな。
ってそんなことよりも、にいには!?」
赤ちゃん座りで辺りを見渡すと、すっかり身体が元通りになったバケモノ(お兄ちゃん)がいた。
「ネッシー、どうすればにいにを元に戻せる?」
「そいつで心臓を一突きすれば…………」
「わかった任せて!」
「ちょっ————」
グサリ。
バケモノの心臓に私はカタナ突き立てた。
というかこれ、口で咥えてるから結構疲れるんだよな。なんとかならないかな。
まあいいか、お兄ちゃんが元に戻るなら。
「…………」
「…………」
「って戻らないんだけど!」
「人の話は最後まで聞け!」
「だって人じゃないもん!」
「めんどくさいガキは嫌いだね、ガチで」
「それで、どうすればいいの?」
「カタナに向かって話しかけるんだ。君の言葉がお兄ちゃんの心にカタナを通じて届くはずだ」
「でもどんな言葉がいいかわからないよ」
「君のお兄ちゃんの心が動くようなインパクトの強い言葉がいい」
なんかとんでも理論だけど。
「わかった、それでにいにが助かるならやるよ!」
わたしは大きく息を吸う。
「にいに————!」
お兄ちゃんの心に届くように。
そい願いながら。
叫ぶ!
「こんな怖いお兄ちゃん、大っ嫌い!」
刹那、お兄ちゃんと目が合った。
お兄ちゃんの体が震えた。
「うががが………………がが。
そ、そんなの………………
——————イヤだああああああああああ!」
そんな悲痛な叫びと共に、また世界が歪んだ。
私は悟る。元の生活に戻れることを。
そうして世界が崩れ去る瞬間、お兄ちゃんの泣き顔が見えた……ような気がしたのだった。
——そして世界は動き出す。
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