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契約

 奴隷といえども肉体の強さは不可欠である。だがしかし、奴隷の身でありながら貧弱。学もなく、さらには地位も名誉も持たぬ。故に世界最弱。

 彼の名はミコト。

 世界最弱の奴隷である。


 ラウレイオン鉱山。海に面した一大銀山であるこの鉱山でミコトは奴隷労働に勤しんでいた。

 ……わけではなかった。


 坑道の隅には、顔色を悪くした奴隷が並ぶように横たわっていた。ミコトもその一人であった。

 

 

 

「……僕ってダメだな。

 まだツルハシを三回しか振ってないのに、もう身体が動かないや」

 

 手足は細く、体のあちらこちらにムチで打たれた後がある。

 

「——あああああ」

 

 坑道の奥から悲鳴が上がる。監視役が、坑道脇で力尽きている奴隷を片っ端からムチ打ちしている音だ。音は次第に大きくなる。

 

 ……もうすぐ僕の番だ。

 

 嫌だ……嫌だ……

 

 そんな時だった。声がしたのは。

 

「そんなあなたに朗報!」

 

 気づけば、目の前に巨大なクチバシを持った鳥……? のような生物が現れたのだ。しかもそんなヘンテコな見た目にも関わらず、周囲からの反応はなかった。いや、見えていないと言った方がいいがしれない。

 

「お、お前はだれだ!」

「えー、私はハシビロコウのネッシー」

「ね、ねっし?」

「ネッシーね? 次間違えたらシッネ!

 ていうのはまあ置いておいて」

 

 置いといていいのかよ。

 

「——ななななんと、今なら僕と契約することでこのクソみたいな空間から抜け出すことができます!」

「本当?」

「ほんとも本当! さあ、契約だ、契約しよう♪そーしようっ♪!」

「そんなノリで言われても困るんだけどさ」

「でもあっちを見てみなよ。ほら、監視役の男がもうすぐそこまで来てるヨォ?」

 

 言われて男の顔を見る。悪虐に満ちたあの顔を。

 嫌だ。

 もう逃げたい。

 僕は目の前を見た。

 

「……ここから抜け出したい」

「わかった。じゃあまあ、とりあえず……このボタンを押してネ!」


 ネッシーの大きなクチバシが開くと、中から丸いボタンが出てきた。


「ええい、どうとでもなりやがれ!」

 

 僕はそのボタンを押した。刹那のことだった。世界が音を立てて崩れ去った——と思えば歪んだ。

 しかしそれも一瞬。


「頑張るんだよ私は君を信じてる。ミコト、ここは——」

 

 ここは終末に収束する世界。

 秩序を信じてはいけない。

 確かなものなんて何もない。

 それがこの世界——終末のアベコベ世界なんだから。

 

 

 

 目が覚めると、小さな家の中だった。僕はだれかの腕に抱かれていた。なぜかそれが母親だと直感する。


「あらっ! ミコト、目が開いたのね」

 

 そう笑いかけた彼女は、白髪の美人だった。言葉からしておそらく僕のお母さんなんだろう。


 ……ん?

 

 どういうことだ。

 僕はあのよくわからない謎生物の口から出てきたボタンを押したはず。それから……いったい何があった?

 

 ……これはどういうこと?

 

 …………って、考えてたら眠くなってきた。そーだ、夢の中で考えればいいのか。うん、そーしよー!


 

 

 ————彼が最弱である所以の一つ、それは頭が弱いということであった。

 

 なんてね。

 君ならできるはずだよ、私は信じてる。

 

 

 

 あれからしばらくしたが、自分の身に何があったのかは未だにわからない。まあ、そんなことはどうでもいいんだが。

 

 ——ないんだ。

 〇ン〇ンがっ!

 僕が僕である証の僕の僕が!

 

 そう、どうやら「僕」は「私」になったらしい。せっかくだし一人称も私にしようと思う。

 

 それで私もだいぶこの赤ちゃん生活に慣れてきた。というわけで私の家族を紹介してみようと思う。

 

 まずはお母さん!

 

「んんん、ま、ま!」

「あっ! ママって言った……ママって言ったよ!」

 

 こんな感じの能天気な性格のお母さんだけど、お父さんがいないから、女手ひとつで私たちを育ててくれている。ちなみにめっちゃ美人だ。

 

「ねえねえ、ヨシツネも聞いてたよね?」

「うん、言ってたね」

「ほらミコトー、お兄ちゃんも聞いてたってよぉ!」


 そう、実は私にはお兄ちゃんがいるらしい。

 

「……母さん。今本読んでるからちょっと静かにしてよ」

「でもでも、ママって言ったんだもん!

 そーだヨシツネ、この子にも本を読ませましょう! きっとヨシツネみたいに頭がよくなるに違いないわ!」


 お兄ちゃんのヨシツネは身体は細いが、頭は良い……らしい。まあ、私は頭がちょっとアレだからわからないんだけども。

 そして何よりも顔がいい。間違いなくアレはお母さん譲りだろう。めちゃくちゃイケメンなのである。そんな幸せな家に生まれて来れて、私幸せ……!

 まあ、赤ん坊に本を読ませようとするのはやめてほしいが。

 

「お母さん、赤ちゃんの顔に本を押し付けるのはやめて」

 

 ありがとうヨシツネお兄ちゃん!

 

 そんなこんなで私の脱最弱ライフが始まったのである。ただ一つ気がかりがあるとするのなら、ここに来てたまに頭が痛くなるのである。

 

 まあきっと大きくなれば治るはず。そんなに深く考えることでもないか…………


好評だったら続きを早く書くかもしれません。

作者はそう言う人間です。

なので感想評価等頂けたら嬉しいです。

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