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【ギュ】

作者: 雉白書屋

 夜。とある研究所を訪ねてきた男。彼は気だるそうに呼びかけた。


「博士。はぁ、言われたとおり来ましたよ」


「おお、君か。早かったな、とは言えないな」


「ええまあ。何せ忙しいもので」


「はっはっは。ニュースサイトの編集長ともなるとそうか、忙しいか。ちょっと前まで平社員だったのになぁ」


「ははは、何年前のことですか。まあ、お陰様でPVも、まあそれはいいですけど、もうてんてこまいで」


「何しろ矢継ぎ早に記事を作らないといけないからか?

大げさな見出しの割りに、くだらん中身のニュース記事を」


「仕方がないんですよ。そうしないと人目を引かないんですから」


「しかし、そんなことを繰り返しては読者が呆れて離れるだろう」


「ええ、まあだからほどほどに。しかし読んで貰えないことには意味がないですからね。ただでさえ現代人は時間がないですから」


「時間は今も昔も変わらんよ。まあ、ニュースを扱う者なら言われずとも、わかっているだろうが娯楽が増え、それに追われているというわけだろう?」


「ええ。新しいニュース。ドラマ。映画。アニメに漫画に人気の配信者、ゲームとあと音楽。

コンテンツの消費が早いというのも納得ですよ。そうしないと追い切れませんから。

社会全体が飽きっぽくなっているようにも感じます。

コスパ、タイパが大事。時間短縮が正義。ははは、ネットニュースの見出しだけ見てコメント欄に書き込む人もいるくらいですよ。それも勘違いの上に、お怒りのね」


「追いかけることに必死でよく噛んでいない。理解力、それに想像力が乏しくなっているように思うなぁ。

まあ、君らがそう仕向けているような気もするがね」


「それはコンテンツの消費の話ですか? それとも見出しの話ですか?

まあ、我々も見出しだけしか読まれないのは歯痒いですよ。きっちりと本文も――」


「そこでだ、ほれ。この紙を見てくれ」


「なんですこれ?」


【あ】


「えっと、ははは、お大事に。でもこれが、ん、あれ? え?」


「気づいたかね。何と書いてある?」


「えっ、その『わし、切れ痔になる。今年四回目。記録更新』と……」


「その通りだ。その【あ】の一文字にそれだけの情報が込められているのだ」


「で、でもどうして今、読めたんでしょうか」


「顕微鏡で拡大して見てみるといい」


「はい……うわっ! 【あ】の中に文字がギッシリと! 気持ちわる!」


「ははははは! 確かにな。だが一文字であの情報量だ。

短い見出し記事にも多くの情報を込められるだろう。その文字を作成するソフトを作った。やり方も簡単だぞ」


「すごい……でも、どうして? どうしてわかるんです?」


「それだけ人間の脳は本来、高性能だということだ。例えば新聞。一ページ丸々視界に収めることができるだろう?

しかし、その内容は一行ずつ目で追うことでしか理解することができない。

それはな、脳が能力を制限しているのだよ。

まあ、当然だ。そうしないと情報の渦に溺れてしまうからな。

だが、私はその制限の柵を乗り越えることに成功したのだよ。

その文字をよおく見てごらん。鍵括弧や色付きのもの。それによくわからない記号もあるだろう?

それらの相互作用で読ませたい文字が強調され、脳が理解するのだよ」


「ははぁ、なんだかQRコードみたいですねぇ。でも、これ人体、脳とかに……」


「大丈夫だ。危険性はない。まあ、立て続けに読めば疲れはするだろうがな」


「いやぁ、しかしすごい。それで、あの博士。さっきこの文字を作るソフトがあると仰いましたけど、うちで使っても良いということですか?」


「ああ、まあ特許を取ってからだがな。友人の君は特別に使用料をまけてやろう」


「あ、ありがとうございます! いやぁ、これすごいなぁ。きっと話題になりますよ」


 それが狙いなのだよ。存分に宣伝してくれ。

 博士はそう思い、ニヤリと笑った。

 かくして、博士の狙い通り、その文字は流行り、博士は特許使用料で大もうけしたのであった。しかし



【お】【し】【ま】【い】

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