8、現世の海
8話です。よろしくお願いします。
「気持ちいい…」
そう呟いたのは日傘を差しながら足だけ海に浸かる色葉だった。目の前の大海原にはアクアスーツ姿のマオが砂浜にいる紅葉をめがけてビーチボールを投げていた。
遡ること1時間前。
「車に乗ってどこに行くんだ」
「………」
笑顔のまま喋らないマオは何かを企んでいるというのがお決まりだ。
紅葉は、はぁ…と溜息を吐く。
車は暗い森を少し進んだ後、トンネルに入り進む。丁度トンネルの真ん中辺りで止まりニコニコしたマオは2人に降りるようジェスチャーする。3人が降りると車は来た道を走り去る。
3人はマオを先頭に歩き始める。
電気のない暗いトンネルを数分歩くと出口に出た。少し目が眩んだがすぐに慣れ色葉は目の前の光景に気持ちが昂る。
「すごい…」
広がる青い空、輝く水面。感動している色葉の後ろには紅葉が立っていた。
「海だ」
「海…」
2人で立ち止まり海を見ていると気づかずに先に歩いていたマオは2人を呼ぶ。
「おーい2人とも遅いよー!」
ぶんぶん両手を上げ叫ぶマオはまるで子供のようだ。
「あいつがうるさいから行こう」
「はい」
3人がいる場所は人間がいる夏の海、現世だった。
「このままだと人間には私達は見えないし暑さもそんなに感じない…それだとつまらないから…」
マオは色葉に触れ背中に文字を書くマオが書いた文字は色葉の背中に消えると、同時に色葉の体感温度は上がる。
「え…何…体が暑い…」
「色たんは人間になったんだ…でも本当に人間になったわけじゃ無い…だけどこの姿は人間には見えるし話もできるよ」
いきなり暑くなりクラクラする色葉を紅葉は支える。
「さっ次は紅葉だよ!」
「私はいい」
「ダーメ」
紅葉はこれがマオが企みと知りマオを睨み背を向ける。
「よし!」
ささっと済ませマオも実体化するといつの間にかアクアスーツに着替え海に入ろうとしていた。
「紅葉!そこのパラソルとテーブルはうちのだから色たん休ませてあげて」
そう言い残しマオは海へ消えて行った。
「紅葉さんありがとうございます……すみません現世がこんなに暑いとは知りませんでした」
「地獄や天国より時間の流れが早い現世は今は夏だからな……」
「なるほど」
「それに、地獄の夏は余り暑くないから城の前にある湖にも入ったりはしない。マオは当分海から帰ってこない体調が良くなったら足だけでも海に入るといい」
「はい!」
パラソルに行きいつの間に用意された冷たい飲み物を飲み1時間休むと体が暑さに慣れ向かいのテーブルに座って本を読んでいる紅葉に話しかける。
「だいぶ良くなったので海へ入ってきてもいいですか?」
「ああ…ならこの日傘を持っていけ」
マオが色葉に用意したであろう白いレースの日傘が立てかけてあり色葉は日傘を手に波打ち際へ向かう。
「わぁすごい」
波打ち際でしゃがみ波をじーっと見つめ履いていた靴を脱ぎ足首あたりまで海に入る。ひんやりと心地いい冷たさで何もかも新鮮な色葉はずっと目を輝かせていた。
「気持ちいい…波と砂で面白い感触」
ビーチには色葉達以外に人間が海水浴を楽しんでいた。色葉は目を瞑る。人の声、リズミカルな波、心地良い風を肌で感じていると背後から知らない声がした。
「お姉さん、1人?」
2人組の男、典型的なナンパだ。だが色葉はナンパを知らなかった。
「はい?」
「ホント!じゃあ今からあっちで遊ぼうぜ!」
2人組の男は色葉の左右に行き背中を押す。
「あの…やめて…」
色葉は何が何だかわからずアタフタしながら連れていかれそうになるが、いきなり2人組の男は苦しそうに疼くまる。
「え?」
押される力が無くなり色葉は視線を落とす。
「く、苦しい…い…き」
ひゅー…ひゅー…と、もがく男たち。
「色葉」
本を読んでいた紅葉は色葉の肩を抱き少し離れた場所に移動していると、海からマオが男たちを睨み近づく。
「寿命を短くされたくなければ今すぐここから消えろ」
男たちの額を指で弾く。2人は何が起きたか、わからなかったが苦しみよりも何故か恐怖が襲いかかり逃げるように去って行った。
「てへ!」
マオは頭に自分の拳を当てると色葉と紅葉の所へ。
「色たん大丈夫だった?」
「私は大丈夫です」
「紅葉!ちゃんと色たん見てないとダメでしょ!こんな可愛い女の子ほっとく男はいないんだから!」
暑さもあってかその言葉でイラッとする紅葉。
「ならお前が見てれば良かっただろ」
驚いたマオは色葉の後ろに行き反論し始める。
「だって久しぶりの海だったから…」
「だったら色葉と2人で来ればいい」
「それじゃあ意味ない!」
2人が言い合いをしてるとマオはどこからかビーチボールを出すと思いっきり紅葉めがけて投げる。バシンっと音をさせながらビーチボールを取り紅葉も思い切り投げる。
その光景を色葉はただ呆然としながら最初は見ていたが中々終わりそうもなかったのでまた海に入る。
「気持ちいい…」
そう呟きながら貝殻を拾ったり、波打ち際で波をじっと見つめているとあっという間に夕方になっていた。
マオと紅葉は流石に息を切らして座っていた。
「またこうやって紅葉と遊べてよかったー」
「………」
紅葉をわざと怒らせたのはマオの策略だったことに気がついた紅葉はより疲れ切っていた。
パラソルに移動していた色葉は2人に飲み物を差し出す。
「お二人共お疲れ様です」
満面の笑顔で色葉は2人を見る。
「色たん…その顔、ほかの男には見せたらダメだからね」
笑っているようで笑っていないマオとは反対に紅葉は真剣な声音を出す。
「わかって無いだろうから、後であの時の何されていたか話す」
首を傾げる色葉を見て2人はどっと疲れが出て、ため息をつくのだった。
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