3、救われた赤子
3話目です。よろしくお願いします。
色葉が館の扉を開けようとするとガチャッと勝手に扉が開いた。
「色葉さん、おかえりなさい」
ナ鬼だった。
「なんで…」
「鬼は耳がいいんです」
色葉はナ鬼の笑顔を見ると安心して頬には涙が伝っていた。
「あらあら、とりあえず食堂に行きましょう。暖かい飲み物を飲めば落ち着きますよ」
色葉は自分が言ったこと、紅葉が怒ってどこかに行ってしまった事を話した。
「大丈夫。紅葉様は怒ってはないですよ。少し昔の事を思い出して悲しくなっただけです」
ナ鬼は優しい声音で話しながら色葉の隣に座る。
「色葉さんは、目覚めてまだ何が何だかわからない状態です。ふとした時に混乱してしまうのは仕方の無い事です。紅葉様はそんな色葉さんに昔の自分を重ねてしまったのでしょう」
色葉は顔上げナ鬼をみた。ナ鬼も色葉を見ていた。
「それに3年もの間、色葉さんのそばに居たのは紅葉様なんですから」
「えっ…」
「はい。3年も一緒にいたのです。なのでちょっとやそっとでは色葉さんを嫌ったりはしないですよ」
ナ鬼はまだ食事の用意は出来ないからと色葉を部屋に帰した。
私が眠っているとき、ナ鬼さんが見ていてくれてたんだと勝手に思ってた…なのに私ったら…。
「謝らないと」
その日の晩は、やはり食堂に紅葉が現れることは無かった。
目を覚まし、ベッドから降りカーテンを開る。ふと庭を見るとそこには紅葉がこちらを見て立っていた。
色葉は髪をまとめ、羽織を羽織ると走っていた。何も考えずに。玄関の扉を開け庭へ走る。
もみじの木々を通ると紅葉は縁側の前に木を見ながら立っていた。足音で紅葉は色葉は見る。息を乱しながらも大きく深呼吸し、ふぅーっと息を整え勢いよく頭を下げる。
「昨日はごめんなさい。私、自分の事しか考えていなくて」
「色葉…頭を上げて話がある。少し長くなるから、そこに座ってくれ」
縁側を指し紅葉も座る。沈黙の中に風が木々の音を鳴らしていると、ゆっくりと紅葉が話す。
「私は捨て子なんだ。それを聞かされたのは色葉をここに連れてきた者。私は赤子の頃からここに居るからなんとも思わなかったが、いつからか「なぜ私にはツノが無いんだろう」って思ったんだ。他の子と違う事をナ鬼に聞いたが教えてくれなかった。困り果てた私は拾ってくれた者に聞いた…そうしたらご丁寧に場所まで教えてくれたんだ」
紅葉は木を見つめた。
「その者は力が強く、その力を使ってよく神の使いを覗いていたそうだ。いつもの様に覗いると、暗闇をこそこそと移動する者を見つけ、屋敷から離れる女の後を追うと、女は抱きかかえたモノを奈落へ続く谷へと捨てたんだ。その川に落ちると最後、神の使いでも消えてしまう。だが、その者は落とされたモノを川に落ちる前に抱き抱えた。ホッとしたのも束の間。腕には泣き叫ぶ赤子。その者は女がした事がわかると、冷静さは無くなり怒りに満ちたそうだ。その者は捨てた女に問う。女の答えは「男の赤子はいらない存在。意味が無い」と言ったそうだ…「欲しいのは女だけ」その言葉を聞いたその者は、怒り震え力を使ってしまったそうだ…女は一瞬にしてその場から消え絶えた…かなり強い力を使ったことで屋敷の当主に知られたそうだ」
紅葉は立ち上がりもみじの木の前に立つ。
「このもみじ達は私が長くいる所に生える」
色葉は以前、木の名前を紅葉が呼んだ時に何故喜んでいる様に見えたのか、わかった気がした。
このもみじの木は紅葉の分身なんだ。それに神の使いって…
「たとえその者が地獄の王でも、どんな見た目でも私の育て親はあの人なんだ」
読んで頂きありがとうございます。