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奈落のイロハモミジ  作者: ツルギ
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2、小鬼の村

2話です。よろしくお願いします。

 ノック音がすると、ゆっくりと部屋を開ける。

 ナ鬼はおはようございますと言うと部屋に入り昨日言っていた着物を丁寧にテーブルへ広げる。


 「…綺麗……」

 

 色葉は勝手に言葉が出るくらい美しい白地で彩りのある花々が魅力的な着物だ。

 

 「朝食の後、着替えましょう。ご用意は出来てますので冷めないうちに来てください」

 

 「はい」


 着物に見惚れていたが、我にかえり顔を洗い食堂に行く。

 

 「ささ!お座りくださいませ」


 そう言うとエプロンを手早くつけた。


 「おはよう」

 

 音もなく現れたのは紅葉だった。

 

 「紅葉様!おはようございます。今、食事をお持ちしますね」

 

 紅葉は色葉の向かいに座る。


 「眠れたか」

 

 色葉は紅葉が来るとは思わなかったので少し緊張していた。


 「はい…」

 

 だが、目の前に誰かが居るのが新鮮で嬉しくもある色葉は自然と頬が緩む。


 「どうした?」


 「いつも1人で食べてたので、誰かと一緒はなんか嬉しくて」


 「……そうか」

 

 そうこうしてるとナ鬼は2人の前に食事を用意した。


 「いただきます」

 

 紅葉は手を合わせ言うと、色葉もいただきますと言い2人は食事をする。色葉が半分食べた頃には紅葉は食べ終わっていた。


 「ご馳走様でした。色葉、準備が出来たら玄関に来てくれ」

 

 「はい」

 

 少し急ぎながらも色葉は食事を済ませる。自分の部屋へ行くと、後を追う様にナ鬼が訪ねてきた。


 ナ鬼はテーブルに置いてある着物を色葉に着せると、着付けを手早く、美しく、丁寧に仕上げ鏡の前に色葉を立たせる。色葉はいつもと違う美しい着物でわくわくしていた。


 「さて、次はお化粧しますのでこちらに座って下さい」

 

 ナ鬼はふふふっと笑いながら楽しそうに化粧をする。次は髪をつげ櫛でとかし編み込みをする。ふんわりと三つ編みをし髪飾りを付ける。

 

 「できましたよ!どうですか?」


 「わぁ…ナ鬼さんすごいです!ありがとうございます」

 

 「色葉さんの紫色の髪にとても合う着物ですね」

 

 暫く鏡の前でナ鬼と話に花が咲いていたが、2人は紅葉を待たせている事に気づき慌てて部屋を出た。

 

 玄関には肘掛けのあるアンティークな椅子に足を組みながら座り何かを読む紅葉の姿があった。


 「すみません…お待たせしました」

 

 先程とは違う印象な色葉に紅葉は少し見つめて立ち上がった。


 「行くぞ」


 館を覆う塀。門を出るとしっかり施錠する。

 

 何でこんなに厳重なんだろう…

 

 不思議に思いながらも、初めて館から出ると、樹木が一本道を作る様に両側に生えていた。

 

 まだ明るいはずなのに薄暗い…


 分かれ道を迷わず進み1時間くらい沈黙のまま歩いていると、紅葉が静かに真っ直ぐ前を向きながら話し始めた。


 「今から行く村は小鬼の村…悪戯する子もいるが、何かあったら言ってくれ」


 「大人の鬼は1人もいないのですか?」

 

 「いる。小鬼は10歳になると大人の鬼になり、違う村に移るんだ」


 「何故、違う村に?」

 

 「凶暴だからだ。腕輪付けて制御してるが、何があるかわからない。だが、腕輪を付けていれば皆いい奴ばかりだ」

 

 紅葉はいきなり止まると色葉の方に振り返る。


 「鬼達は塀の中にいる。あの門を抜けると小鬼の村だ」

 

 色葉は示す方を見ると塀に囲まれた村があり、そこには禍々しいものとはほど遠い洋風な鉄の門があり綺麗な花壇もあった。


 紅葉と色葉は門を潜ると小鬼達が出迎える。

 紅葉は近くにいる小鬼を見るなり抱き上げ高い高いをしてあげると、たちまち紅葉の周りには小鬼が集まって皆、紅葉様!と嬉しそうに呼んでいた。

 その光景は素っ気無い紅葉とは違いただ優しいお兄さんになっていた。


 「紅葉様、お越しくださりありがとうございます」

 

 紅葉を呼んだのは若い男の鬼は、深深く頭を下げお辞儀をしていた。

 

 「ツ鬼、子供達に話したいことがある」

 

 紅葉の少し後ろにいる色葉に気づくと「こちらへ」と言い部屋を案内する。

 ツ鬼の後をついて行くと大広間には大勢の小鬼達が紅葉の訪問に喜んでいた。


 「みんな元気だったか」

 

 その問いに小鬼たちは元気に叫んだり、大声で答えていたりしていた。その中で「お姉さん誰?」と疑問の声もした。

 聞き逃さなかった紅葉は色葉に自己紹介するようにと言う。


 「初めまして色葉と言います…」

 

 色葉のこんな大勢の前で話した事はなく顔は少し引きつっていたが話し続けた。

 

 「今はナ鬼さんの所でお世話になっています。ナ鬼さんには本当に良くしてもらっていて、感謝しても仕切れないです」

 

 小鬼はナ鬼の事も知っていて「ナ鬼姉好きー」っと言う小鬼もいた。その中で手を挙げる小鬼が質問し始めた。

 

 「おねぇさんは、いつからいるの?」

 

 小鬼にとってはただの他愛もない、いきなりの質問だったが色葉は違った。3年前から居ますとも言えず黙ってしまう。

 色葉に小鬼はどうしたのー?と言う。

 

 早く答えないと…早く…


 「こ…ここに来る前の記憶は…ありません…」

 

 色葉は何とか話そうとしたが、紅葉の声が室内に響き渡る。


 「お姉さんはまだこの世に馴染めてない。みんな、ここに来たときは仲良くしてくれ」

 

 紅葉が話し終えると小鬼たちは仲良くする!と元気に返事をしていた。子供達の無邪気な顔を見ると色葉も少し安心していた。

 小鬼たちと昼食を終えて1時間くらい経ったとき、紅葉は帰る事を告げる。名残惜しい子供達に手を振り村を出る。

 静かな帰り道、色葉は紅葉の一歩後ろを歩いていた。

 

 私の記憶…

 

 色葉は自己紹介の時のことを思い出し、今まで気になっていなかった記憶について考えていたが、思い切って紅葉に聞いてみる事に。


 「紅葉さん、私は何故眠ったのでしょうか」


 「……」


 「記憶があれば…」

 

 紅葉は振り返ると色葉を見つめ、そらす。


 「そうだな…記憶があれば大切な人や大事なもの、帰りたい場所がわかるかも知れないな。」


 紅葉はいつもより低い声だった。


 「館が見える所まで来た。後は1人で帰ってくれ…ナ鬼には今日はいらないと伝えてくれ」

 

 紅葉は背を向けると一度も色葉を見ずに一瞬にして消えた。

 虚しく吹く冷たい風が頬を撫でる。色葉は何が起きたかわからなかった。


読んで頂きありがとうございます。

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