1、赤い木
初めて投稿します。
右も左もわからない者ですがよろしくお願いします。
黒いモヤが女を包み込む。
「さ………く……」
真っ暗闇の中。途切れ途切れの声は、私を呼んでいる気がしてた。身体は動かないが脳内に一瞬だけ色々なことが早送りのようにフラッシュバックしたけど、すぐに消え去った。
目を瞑っているのかも分からない。けど、瞬きをしてる感覚はある。何も見えないが、直接頭の中に禍々しい声が響く。その声が言葉を発する度に頭が痛み出す。
"オマエは消えたいか?"
それとも
"オマエは生きたいか?"
何も見えないがその者は問いかけてきた。
頭が割れそうに痛い。
この状況を早くどうにかするために答える。
「私は…わからない…でも…生き…たい」
"………"
スッと頭の痛みが消えると糸が切れた様に深い眠りについた。
リンッ…リンッ…リンン……
何かを打ち付ける音…薄ら目を開けゆっくりと音のする方に顔を傾け見る。そこには赤い髪をした男が畳に座り手毬を壁に打ち付けていた。
あの人は…誰?
「あ……」
漏れ出た声で赤い髪の男はこちらに視線を移した。男は無言のまま立ち上がり、寝ている私の横に腰を下ろして額に手を当てる。その手は冷たく心地良い。
「熱…下がったな」
男はそう言うと立ち上がり部屋から出て行く。少し笑っているようにも見えたが、意識が遠のき眠りにつく。
それからどのくらい寝たかは分からないが、頭の中は冴え渡っていた。ゆっくりと上半身を起こし辺りを見るが見覚えがない場所。布団から窓の外を見ても赤い木が風で葉を散らす。
「ここはどこ…」
そう疑問を声にすると、いつの間にか布団の隣に男が座っている。
「ここは地獄…記憶はあるか?」
地獄?頭が追いつかない。
「私は……」
あれ?
答えたくても答えられなかった。
わからない。
何故眠っていたのか。何故ここに居るのか。
思い出せそうで思い出せない。
頭を抱えていると、あの冷たい手が私の目を覆いその冷たさに少し落ち着くと安堵からか涙が溢れる。
「……わからない」
男はそうか…と手を離す。頭が冷えたせいか少し落ち着きを取り戻す。男が見ている赤い木を私も見つめた。その木は赤やオレンジ色の葉が美しく一度見ると目を奪われる。
綺麗…。
「あの…あの木は何て言う木ですか?」
「………イロハモミジ」
男が木の名前を口にするとイロハモミジは喜んだかのようにキラキラし生き生きしている様を見え、見てると何だか羨ましくもあった。
いいな…
二人は輝かしいイロハモミジを見る。
「私…名前も思い出せないんです」
男は無言で私の方を見ると目を閉じ少し考える。
「……イロハ…」
聞こえるか聞こえないかの声で男が言う。イロハモミジを見たからそう言ったかもしれない。
「色の葉で色葉…なんてな」
男は私を見るとすぐにモミジの木に視線を戻す。
「色葉…素敵ですね私にその名をください」
「ああ…かまわない」
私は出来たての名が何だか嬉しくて色葉と名付けてもらって少し頬が緩む。
「ありがとうございます」
色葉は思わず男に笑顔を見せる。それほど嬉しかったのだ。
男は後で夕食を持って来させると言い部屋から出て行く。1人になり何を考えてもわからず、布団をゆっくり被るとコンコンと扉をノックする音がした。
「はい…」
聞こえるかわからない声で、返事をするとガチャっと扉が開く。
「あらあら眠っていらしたのですね」
部屋を開けた者は肌が赤く、頭にはツノが2本生えている。鬼だ。色葉は鬼に驚きつつも起き上がる。
「初めましてナ鬼と申します。色葉さん」
「初めまして…」
ナ鬼は礼儀正しく自己紹介をすると、色葉の布団の隣に正座をする。
「具合はどうですか?食事をお持ちしました。消化に良いものと思い卵粥を作りました。お口に合うと良いのですけど」
そう言いながら、テキパキと準備をし色葉にあーんと言い食べさせる。スプーン一杯を口に含むとそこにはふんわりと米を包む卵に程よい塩味。鼻から抜ける香り。
「美味しい…」
「良かった!はいどうぞ」
スプーンを渡されると無我夢中で卵粥を平らげる。
「ご馳走様でした。ナ鬼さんとても美味しかったです」
ナ鬼はふふっと笑うと後片付けをする。
「ずっとあなたが起きるのを心待ちにしていたの。だから嬉しくて」
心待ちにしていたって私はどのくらい眠っていたの?色葉は疑問に思いながらも起きてくれて嬉しいと言ってくれるナ鬼の言葉は色葉の中で安心に変わっていた。
「ここに居る間は、私がお洗濯したり食事を作ったりします。何かありましたら遠慮なく言ってくださいね」
ナ鬼はゆっくりと色葉の身体を寝かせる。
「夢の闇を彷徨っていらしたので今日はこのままお休み下さい。また明日きます」
ナ鬼は部屋の灯りを消し部屋を出て行った。静寂の中、しばらく天井の木目を見ていたがお腹が満たされた色葉はいつの間にか眠りについていた。
朝になるとナ鬼がお越しに来てくれたが長い間眠っていた色葉は、上手く立てずリハビリがてらとナ鬼の肩を貸してもらいながら食堂やお風呂を案内してもらっていた。
「こちらは色葉さんのお部屋です」
その部屋は今までいた和室とは違いベッドがある洋室でアンティーク調な可愛らしい部屋だ。
「素敵…」
「この部屋は、前に居た方の趣味なのです。気に入って頂けて良かったです」
部屋に入るとソファに座る。目の前にあるテーブルの脚には美しい彫刻がされていた。
「前に居た方って赤い髪の…?」
「赤い髪?…あっ紅葉ではないですよ」
「もみじ?」
ナ鬼はあれって顔をしながらもすぐに理解する。
「なんてこと…あの子は自己紹介をしてないのね」
ため息混じりに呆れていた。
「まぁそんな事より、色葉さんが持っていた物とか着物はあの机に置いてありますので、後で…記憶がないと思いますが確認して下さい」
この後用事があるからとナ鬼は部屋を出る。色葉は壁伝いに歩き机の椅子に座ると引き出しを開ける。
「かんざし?」
綺麗なオレンジ色した石は、色葉の目の色と同じ色で傾ける度に光が反射してキラキラしていた。だが、何も思い出せなかった。
それから色葉は、ナ鬼のお手伝いで畑仕事や掃除、たまに料理を教わったりしている。
ナ鬼さん…料理上手で優しいし、何より一緒にいて楽しい!ナ鬼さんとこのまま暮らせたらいいな…
そう思いながらも月日は経ち3ヶ月経過していた。身体も普通に動ける様になっていた。
いつもの様に昼食を終え、する事もなく椅子に座りながら窓の外をボーッと見ていると、もみじの木と木の間を歩いている人を見つける。
誰だろ…ナ鬼さんじゃない。
色葉は確かめる為に部屋を出ると小走りしながら庭へ着く。黒髪の男が木に触れていた。
「どうした」
瞑っていた目を開け色葉の方を見る。紅葉だ。
色葉はあれ?と思いながらも目を覚ました日以来、紅葉には会っていなかった。
「お久しぶりです。あのっ紅葉さんは今までどこに居たのですか?」
「城だ」
これは、話を切り出す為に聞いただけでここからが本題だった。
「そ、そうなんですね…それと、私はどのくらいここにいますか?」
この事はナ鬼にも聞いたが、「この館に色葉さんが来たのは半年前なんです。詳しくは紅葉様に聞いた方がいいですよ」と言われていた。
紅葉はゆっくりと色葉に近づく。
「君はここに来て3年になるが、眠っていてその感覚は無い」
「えっ3年?!」
全く実感が無い色葉は驚きを隠せなかった。
「君が何故ここに来たかは知らないが、誰が君を連れてきたかは知ってる」
色葉は教えてと言う前に紅葉の言葉が遮る。
「だが、今は教えられない。ただ地獄の門を通る者は記憶が無くなり、夢の闇を彷徨う」
「そ…うなんですね」
話についていけない色葉は頭の整理がつかないでいると、紅葉は話をわざと逸らす。
「ナ鬼の食事は美味しかったか」
「えっ」
色葉は日々美味しかったあの食事を思い出すと、頭の中はナ鬼の食事ですぐにいっぱいになる。
「とても美味しかったです」
頬が緩む色葉を見る紅葉の表情は少し柔らかくなると、「良かったな」と言い色葉の肩にポンと手を軽く置き歩き出す。
「ここは地獄…ここで生活をして行く上で色々と知っていた方がいいだろう。少しずつ知っていってくれ」
紅葉は玄関の扉を開け色葉が入れるよう押さえる。
「ありがとうございます」
パタンッと扉を閉め色葉に向き直る。
「明日、村に用があるから一緒に来てくれ」
そう言うと紅葉はこの館にある自分の部屋に行ってしまったが入れ替わるようにナ鬼が話しかけてきた。
「色葉さん!明日の朝食前に新しい着物を持って参りますので、お部屋でお待ちになられてください」
「わかりました」
「あっそれと、明日村に行かれるのでしたら、夕食後は早めにお休みになってくださいね」
ナ鬼は色葉の部屋へ送り扉を閉じると、明日のことで頭がいっぱいになっていた。
初めて館の敷地の外へ出る事に。
ここまで読んでいただきありがとうございます。