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曇天の下の極彩色  作者: 雨水雄
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第72話

ありがとう、待ってくれて。

そしてごめんなさい、こんなにも待たせてしまって。

生きるってことは素晴らしいから。

その輝きは愛されてほしいから。

だから、それを明日を選ぶあなたに知って欲しかったの。

人にとって正しい別れ方とはなんなのか。

人とまともに関わったことがないからこうして悩む。

普通で、平凡で、普遍的な流れすら、私の生き方では学ぶことがなかった。

ただ「さよなら」と告げるだけで、そこにありったけの感情を乗せるだけで、それだけでいいのだろうか……。

まだこんなにも心残りはあるというのに。

これからどうしようか心配で仕方がない……さて、私になにができるだろうか。

なにが正解でなにが幸せへ導いてくれる道筋なのか、それを誰かが簡単に教えてくれるわけでもない……その誰かとは果たして誰なのか。

それでも、死んでほしくないと泣いてもらった。

まだ生きていてほしいと頼まれた。

これが私の本命の人生ではないとしても、その気持ちを理解しているのもきっと私なのだ。

大切な人には生きていて欲しい。ただ死んでほしくない。

もはやそれに尽きる。それ以外ない。

終わってしまっては、もうなにもない……それに限る。

死んでしまったからこそそれを伝えたかった彼女たち。

死を見送ってしまったからこそ頷いてしまった私。

決して彼女たちが間違っていたわけではない。今の私ですら間違いだらけなのだから……。

だからこそ、この先に待っているのがなんなのか。

私たちは……私だけの観測でそれを知りたいだけの人生なのだ。


あんなにも濁って澱んで腐りきっていた鈍色の空は、ふと目を閉じると……一瞬暗転すると、次には消えていた。

私は、また世界で目が覚めていた。


「…………戻ってきたのね」

そう理解するのが正しいのだろう……。

私はパラレルワールドと呼ばれるいくつも存在する世界線を行き来する体験をしていたのかしら。

否。これはきっと私にもあったかもしれない側面を覗いたに近しい感覚があった。

このまま私もあのセカイへと足を踏み入れる可能性はあった。これはパラレルワールドではなく、約束された死後の辿るべき唯一のルートだったのよ。

だから私が今ここにいるのは、今ある私の全身全霊の限りを尽くして絞り出した人生への答えなのよ。

いつも用意されている生きることと、逝きることの手札の一枚を私は引き抜いたに過ぎない。

ただそうね…………それを選ぶには少し特別な景色が横切ったのでしょう……本来であれば一人で決めるべきことに、私は卑怯だと卑下されてもおかしくない力を借りた。

「でも、これからが私なのよ……」

なにが私らしさなのか。

そもそも、私らしさを探す旅が始まったといっていいわね。




そこで私は一通のメッセージを送った。

もう、二度と顔を合わせることもないかと思っていた人物に。

そして、次の日には会うことになった。

佐奈川さながわさん! 昨日の今日でご連絡ありがとうございます!」

「ええ、こちらこそ急に呼び出してしまって悪いわね」

私は平野ひらのさくらに再会した。

今は昨日お世話になったカフェでまた向かい合わせに座っている。

ちなみに二人きりで。その条件で。

「それで、また私に会うってことは考え直してくださったということでしょうか!?」

「そうよ。私の中でちゃんと返事をさせてもらおうかと思ってね」

「ならばやっぱり先輩を呼んだ方がよくないですか? 私一人じゃ契約の話までは進められないので……」

「いえ、結構よ。私が話したいことにきっとあの男性は必要ないのだから」

「え……?」

平野ひらのさんから急に陽気が失われる。

「あなたを引き抜きに来たといえば分かってもらえるかしら?」

「引き抜く……?」

この言い方がこの場に適しているのかは分からない。

そもそもこの子にとっての居場所が本当にそこにあるのかも分からないから。

そう。だからこそ……そうやって悩んで迷って困っているからなにかに縋りつこうとしている姿があるからこそ、私が引き寄せてあげようと言っているの。

「私ね、これからカフェを開こうと思っているの。と言ってもノウハウも経営も技術もなにもかも足りないけれどね」

自虐ぎみに私は自分を嘲笑う。

それでも清々しく。諦めた気持ちなんて一切ない。

「そこに私を誘ってるってことですか……?」

「ええ、そうよ。だから私はあなたの期待には応えられない。一緒にあなたのビジネスはできない。その断る代わりにあなたを今度はこちらがスカウトしているの」

「……なにを言ってるか分かってますか? それに私にとってのメリットはありますか?」

「さぁ、どうでしょう……私もやってみないとなんとも言えないわ。ただ、私は今のあなたならばと思って声をかけているの」

「お金が稼げるか分からない。もしかしたら赤字で店を畳んで借金を背負うことになるかもしれないんですよ? そもそも私だって飲食経験がないですし……」

「だからこそなのよ。それなら、これから探せるから」

「なにがですか?」

平野ひらのさんは少しキレ気味で反抗してくる。

それでも私は怯まなかった。ここで闘うの。これしか武器がないから。

生きるということに必死になることで、私ならではのなにかを見つけたいから。

ここで食い下がるわけにはいかなった。不恰好で無様で不細工でも、ここで私らしさを掘り当てたかった。

「私たちは生きてるってことを。明るい未来は今はないのだから。これからに責任を持つのよ」

「なにを言ってるんですか……? 私もう帰っていいですか?」

「ええ、いいわよ。全然断ってもらって構わない。でも、あなたは一生私の見る景色を知ることはないわよ」

「別にいいですよ。私は今が楽しいんです。みんなでお金に困らない生活を共有して、その人たちで仲良くなって、人生を謳歌するんです!」

「じゃあ今の時点であなたはお金をいただけているの?」

「いえ、まだですけど……でもこれから勧誘を続けて同じ考えの人が増えればもっと楽になるんです! 長い目で見れば私は勝ち組になれるんです!」

「勝ち組ってなに? お金に縋り付いてそうやって人を狩るような目で見てくるあなたみたいな子を言うの? お金があればなんでもいいの? 今、大切にしている人、時間、その心で大事にしている言葉はどうするの?」

「……で、でもみんなでお金が入ってくればそれでみんないいじゃないですか! いつかは誰も文句はいいませんし、こうやって今苦労している時間も笑い話にできますから!」

「そう……私はあなたと仕事している時間がね、実は楽しかったりしたのよ。本当は最初の時点ではめんどうごとを押し付けられたとも思っていた。でも頑張るあなたの姿があったから……ちゃんと時間と共に成長している一番、人として美徳な時間を大切にしている平野ひらのさんだったから私は仲良くなれるかなって……まぁ、勘違いだったわよね。だって私教えるのも下手くそだったし、そもそも人と話すのも苦手だったから……」

「ち、ちがっ……! 私だって佐奈川さながわさん……先輩が優しくしてくれたからもっと頑張ろうって……! でも頑張れば頑張るほど楽しくないことも増えていって……心が楽な方ばっかり見てしまってたんです……」

「辛いでしょ? 苦しいでしょ? 報われない悔しさがあるんでしょ?」

「はい……」

彼女は私の目の前で目元を拭いだした。

ぽろぽろと溢れるそれは、まだ混沌の中にいるということ。

もうあんな嫌な思いをしたくから……働きたくないから。だからこうして不労所得ならばとよく分かりもしない釣り下げられた餌に食いつく。

「そして、ありがとう。私が平野ひらのさんにそこまで慕われていたなんて……正直やっぱり嬉しい」


「だから、信じてほしい。大人という括りではなく私を。一緒に幸せを目指してはくれないかしら……? これから待ち受ける失敗も後悔も間違いも含めて、またいつか楽しかったねと言える幸せを見てみない?」

「先輩……?」

「私はまだこの心で生きるから。あなたが今見ているこの瞳をどう感じているのか……答えを聞かせて」

それはまた今度ではいいわ。と私はその日を終えた。

結果として、彼女はまた笑って私の元へやってきてくれた。




早二年。もうそんなに経つのかと思ったのが今日だった。

るい先輩! おはようございます!」

「ええおはよう、さくら。今日もよろしくね」

「はい! 頑張りましょう! 昨日は焙煎が上手くできたと思ってるんで今日は自信作です!」

彼女はさっそくコーヒーの豆がしまってある倉庫へとぱたぱた走って行く。

私はふぅ……と息を吐く。

開店準備をするために店の外に出る。

日差しのない朝。

曇る色に塗り上げられた空を仰ぐ。そして店の外観を見やる。

「なんとかなったのかしらね……」

空気の澄んでいる殺風景な周辺の中にぽつんと佇む私たちの店は。

本当になんとか人が集まっている。

ここまで来るのは大変だった。どれだけの人にお世話になっただろうか。

でも、だからこそ愛された。

私が、私自身を信じた道は……さくらに信じてもらったこの店は、こうして花を咲かせようとしていた。

そういえば母も時折来てくれて、親孝行もこうして出来ているのかなと……しみじみ感じている。それでももらったものが多すぎると痛感もした。私は恵まれているんだとつくづく実感もした。

果たして、これが正しかったのかなんて分からない。

でも、生きているから見られたものがここにはある。

だから、私はまだ明日を生きているんだと思う。


今にもあめが降りそうな曇天の下、私の前にはなににも変え難いえみが咲いた

そんな霽れた日のことを、私は忘れてやらない。




るいお嬢…………ありがとね」

彼女はきっとそう言ってるはずだから。

言ってくれなきゃこの苦労は報われない。

私はその言葉が届く日を待つことにするわ。

どうもこんばんは雨水雄です。

今年最後の書き納めとなり、こんな時間投稿することになり、また一年が終わったんだなとじわじわ感じながら今これを書いております。

なんだか、今年初めの投稿の際にも一年はあっという間に終わるから精一杯生きていきたいと語ったことがこんなにも呆気なく過ぎてしまうとは思っても見ませんでした。

みなさんは今年一年どうでしたか? 予定通りでしたでしょうか……そうであれば自分を大変誇っていいですよ!

雨水は今年一年は今がそうであるようにばたばたしていて、この作品もちまちま投稿させていただく形になってしまい、自分でもこんなにも話が進まないことがもどかしかったです。改めてよく終われたな……と。

それはそうと、まぁ次作品もまた書こうとは考えてますしプロット自体はあったりするのですが、いかんせん物語は一切始まっていないので、みなさんの目に届くのはいつになるかは不明です。

なので、ここに僭越ながら雨水がこの作品を通してというか今までの積み重ねの中で今一度大切にしたい意気込みを残しておきます。

なんといいますか……愛されることと、好かれることは違うんだなと改めて言葉にして収まったということがありまして。

好かれるには相手に合わせればいい。相手が望むこと、嫌がらないこと、機嫌取りをすればいい。もはや都合のいい対応をしていればそれなりに好感度は上がるんだなと。

対して、愛されるにはやっぱり努力が付きものなんだなと。雨水自身、愛することを大事にしており、相手が自分を嫌って離れていくまでその人のことを考えて自分らしさで愛していきたいなと。それはもちろん雨水なら嫌な部分もでてきますし、でもそれも含めて雨水なんだなと……それを通して愛する姿を理解してもらえればそれは雨水がまた愛される道筋につながるんじゃないかと考えるようになりました。ごめんなさい文字でしか表現できないというのに上手く伝わっているでしょうか……。

まぁ要するに、らしく生きてください。妥協も大事、諦めも大事、同調だって重要。

でもその志を。信念を。人に対してのその情熱を捨てないでください。それを最も大事にしてください。

あなたはあなたしかいませんから。明日は輝かないかもしれないですが、それでもあなた自身が今輝いてないことにはなりません。その輝きに気付いてもらえていないだけですから。すでにみなさん輝いてますから!人を大切に思う気持ちが煌めいてないわけないのですから!

つまり、雨水はこれを読んでくださっているあなたを愛しています。駄文だってたくさん紡ぎます。それでもこの気持ちだけでまたあなたに会えることを楽しみにしております。

ありがとうございました!

来年も一日一日を生きていきましょう。

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