第71話
もう今では、今までありがとうしか言えないから。
だから、また会う日を願いたいから。
私たちはここで背中を向け合うの。
彼女の言い分はあまりにも詭弁だった。
「私の夢を叶えてみてよお嬢。それが私の幸せだって言ったらさ、お嬢の幸せにもならないかな……?」
自分でも厚かましく見苦しい頼み事をしている自覚はあるんだろう……笑美は誤魔化すように苦笑いを浮かべる。
「もしその幸せがお嬢の欲しいものじゃないなら、また自由に選んでくれていい。ただ今回だけ。今のお嬢にお願いしたいな……」
簡単に言ってくれる。そういった本心が見え隠れしているのも事実だった。
反面、じっとこちらを見据えている恋花からは強い意志が感じられた。
「恋花もなにか言いたいことはあるのかしら?」
別に怒ってなどいない。
叶えられなくて悔しいから。早計だと後悔しているから。
私に託しているんだとしたら綺麗な物語だ。それを私が成就させたらの話だけれど。
高校生という若さの判断は、今にしてみれば確かに早計だとも言える。
果たして、どうだろうか……。
こうして今も成長していない私からすれば、その早計さも賢明だと捉えられるかもしれない。
そうだとすれば、これは一つの可能性の話。
たとえ結果論だとしても、ただの慙愧に対する穴埋めなのだとしても……。
私は、その答えを持っていると信じて恋花を見た。
「私は……ただ涙ちゃんに生きててほしい」
「私にできることなんてなに一つないわよ?」
これは些細な確認。
「それでも、幸せになって欲しいから」
笑美は小さな幸せになれる方法を教えてくれた。それが幸せなんだと私に無理矢理叩き込んだ。それがいらないものなら今度こそ捨てればいいと。
「あの世界には憎悪も悔恨も拒絶だってあるわ。それでも私にまだ立ち向かえるかしら?」
これは正直な感想だ。もう寂しいのは嫌だから。辛いのはごめんだから。
このままこのセカイで二人を探す旅に出る方がよっぽど正しい気がする。
「でも、あなたがいなくなるという切なさが……私たちはまだ受け入れられない」
恋花は弱さを吐露する。
「私には有無も言わずに押し付けてきたくせに、あなたたちがそれを言うのね……」
「だからだよ、お嬢……。今だからごめんって言いたい。今だからこそまだ間に合うから……生きてて欲しい」
「私たちは誰一人、独りじゃないから。ここでずっと待ってる。想ってる。見守ってるから……!」
それは今を繋ぎ止めようと躍起になるような。
だけれどそれは、これからの未来に勇気と覚悟を示すような必死なような……。
笑美は一心不乱に私との距離を詰める。
もうすぐその唇に触れてしまいそうなくらい顔が近い。胸が高鳴る……どんどんと心拍数は上がっていく。
でもこの高揚感は、また別のもののような気がした。
「私たちは、ここでまた会えるから。だから今だけは生きている涙ちゃんに全てを賭けてみたいの……人生にも明るさがあるってことを」
恋花は便乗して私に生きることを強いる。
「私はあなたたちの期待に応えられるからは分からないわよ」
これはただの懸念を吐き捨てるだけで、答えはほぼ決まっている。二人にはそう聞こえたに違いない。
「私を信じたあなたたちを、私は裏切る結果になるかもしれない。やっぱり人生はこんなもんって幻滅するかもしれないわ」
「それでも、信じてるから。お嬢が明日からまた生きることを選んでくれるだけで、私たちはそんなお嬢だから信じられるの」
「もうなにも媚び諂わなくていいから。誰の顔色も窺わなくていいから。自由に、なにも背負わなくていいから」
恋花は続き、笑美はまた畳み掛ける。
「もしね、お嬢がこれまでが間違いだって言っても、私はそれでいいよ。だって今がこんなにも嬉しいんだから。間違っているお嬢のままでいい。そのままでまたこれからも私はここで幸せを語れるから」
「だから、またねお嬢」
流さない……懸命に堪えるそれは瞳を華やかに潤し、しっかりと私に照準を合わせていた。
そして、彼女の姿はもうすでに私の目の前から消え去ろうとしていた。
「もうそろそろダメみたい……私たちは本当は元々会ってはいけないから…………でも、私も涙ちゃんとここで出会えて幸せだったよ」
恋花もまた同じ顔をしていた。
生きている人間と死んでしまった人間は相容れることはないから。
だからこそ、私たちはまた会える日がある。
「分かったわ。また会いましょう」
この時だけは。
決して誰一人涙を流すことはなかった。
さよならなんて言いたくないのだから。
どうもおはようございます雨水雄です。
さて、もうすぐ今年は終わり、同時にこの作品も次回で最終話かなと考えております。
最後の彼女たちの行く末をどうか見届けていただけると幸いです。
あ、メリークリスマス!みなさんよい一日をお過ごしください!!
さてさて、今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。




