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曇天の下の極彩色  作者: 雨水雄
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第63話

こんなにも、今を待ち望んだことはあったかな。

今までがある中で、これまでだってあるのに。

どんなときよりも、この待つ時間が、たまらなく焦ったいな……。

見慣れた学校を。歩き慣れた校内を。

私はまたこうして同じ道筋を辿っている。

あのときは意識が遠くなりそうなくらい必死に、暴れるように不格好にただひたすら階段を上がっていた。

それこそ、今ではすっかり忘れてしまったけれど……さっきの恋花れんかを追いかけたときのように。

息が上がって、体力の限界を思い知って、足が動かなくなる感覚に嫌気を差しながら……。

今じゃ、その疲れもない。当然体力の限界はあるけれど、それでもこうして歩くだけなら無尽蔵に続けられる……そんな風に自分自身を忘れ続けている。


今、私の中に残るこれはなんなのだろう……。

動くはずの足はなぜかこんなにも重くて、正常なはずの腹部は奥の方がずっと締め付けられるように苦しい。

心が……私の過去がどうしたらと、憂いを帯びてその先を怖がっている。

啖呵は切った。叱りに行くと決めた。その言動と問答だって用意している。私の言いたいことはもうすでに喉元で待機している。

それでも……やっぱり会うのはまだ緊張している。

本当に、今この頭の中をぐるぐると駆け巡っている考えがちゃんと言葉にできるのかとか。

私の言ったことに対して、彼女が真っ当に私を言い包める答えを導いたらとか。

私は、ずっと無力だから。まだ強くないから。

だから、私のこの鍵は。小さくてか弱くてしっかり握っていないと無くしてしまいそうなそれで。

彼女の奥底に秘められた涙を、笑顔をこじ開けることはできるのだろうか……。

こうやって間近になるほど。もうすぐというところで、こんなところで怖気づいてしまうのが、まさに私らしいと嘲笑ってしまいそう。


こんなにも臆病で、こんなにも小心者。

それでいて世間の中に溶け込むにはあまりにも不器用。

そのくせ馴染まないその周囲を妬み、嫌悪し、遠慮する。

だから、こんなにも色のないこのセカイは、まさに私にとって極楽浄土だった。

なにも争わない。どこにも気を遣わない。なににも恐れなくていい。自由とはそこにある気がした。


でも、きっと世界とはそうじゃない。

呑み込む力があるから、弾かれる私がいた。

協調する姿があるから、省かれる私がいた。

手を差し出せない弱い私は、そうやって比較対象がいたから評価を得られた。

一人じゃない世界だからこそ、弱い私は確かにいた。

だから、こんなにも誰かを愛おしいと。少しでも愛されたいと思う私がいることは、あまりにも幸運だった。

彼女がいない世界より、このセカイの方がよっぽど恵まれている。

「でも、それだと少し寂しいと……今では思う」

いざ一人になって。

本当に独りになって。

彼女の希望だけと取り残されたこのセカイは、それでもいいと思う反面、やっぱりなにか物足りなかった。

幸せだといいきるには、その証明するための環境が足りない気がした。

あぁ、確かに彼女とならば、このセカイで二人きりになったって、どうとでも幸せを続けられるはずよ。

…………でも、世界には、案外退屈というものを埋め合わせる幸せがありふれているんだとも気がつかせてくれた。

「だから、勝手に……」


私は、ついに、その屋上の扉の前に着いていた。

いつも私たちが過ごした空間には、今彼女はいなかった。

この先で、あのとき彼女だけが見たあの景色に、私も一歩踏み出した。

どうもおはようございます雨水雄です。

まぁ、もうここまで読んでくださっているみなさんにはお気付きでしょうが……おそらく来週か再来週のお話が一番の佳境かとは思います。

今まで誠心誠意を込めて、最後まで大事に綴らせてもらいますので、お待ちいただけると幸いです。

さて、今週もここまで読んでくださりありがとうございます。

では来週もよければここで。

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