第5話
彼女と私は何もかもが違う。
生まれついた場所も、吸っている空気も、目に映る光景も、そこから芽生える感情も……。
なにもかも、囲うもの全てが違う。
でも、その目が似ているということはさ。
きっと、やっぱり世の中はどこもかしこも同じように狂っているんだよね。
この憂いは傲慢で、強欲で、断罪そのものだ。
目の前で抜け殻になってしまった彼女を見て。
「あなたをまだ、死なせてはいけない気がするの」
よくもそんな譫言が謂えたものだ。
罪悪感に押し潰され、生と死の間で板挟みになりながら。
かろうじて息をしているだけの生きた心地がしない日々を送り続けている私が。
彼女の瞳を目にして、なお死ぬことを拒絶するなんて……。
自分のことは棚に上げる時点で論外だというのに……私は矛盾を承知で彼女の手を握った。
「え…………?」
思いがけない言葉が降りかかった彼女の目はひどく驚いていて、開いた瞳孔がまだ私を睨める。
それが図星なのか、それとも的外れなのか。
その答えは彼女にしか持っていない。
そうだというのに私はあまりにも不謹慎な心配をした。
生きることを放置する答えを前提にして……。
言ったそばから、冷や汗が頬を伝う……。
私は彼女になんて失礼なことを聞いてしまってるの……もし、そんな変な気を一切起こしていなかったとしたら、私はお門違いもいいところ。彼女の信頼をこの一度で全て瓦解させてしまう。
いや……そんなもの最初からなかったわね……。だからこそ今まで人と接してこなかった経験の差がここで仇になったんだわ。
「…………先輩は、分かるんですか?」
自分の無責任さに息が細くなるのを実感していたところ。
とうとう口を開いた彼女が投げかけてきたのは、私の変化球とそう変わらない飛躍した返球だった。
分かるんですか…………と聞かれてしまった。
それはすなわち、肯定……と受け取るべきよね。
「たまたま……と言えば今のあなたには失礼かもしれないけれど。昔に似たようなことがあったのよ……」
だから彼女も同じなんでしょうというのはまた違う。
彼女とあの子は違うのだから……歩んできた道も。選んできた分岐点も。味わってきた屈辱も雪辱も……凌辱でさえも。
「そう、なんですね……。じゃあ、私との最後の会話……お願いしていいですか?」
「ええ、私では到底役不足でしょうけれど」
あわよくば、最期にならないことを願うばかりの私ではやはり無力さが際立つわね……。
辿り着いたのは、彼女の家の近くのカフェだった。
このまますぐ家に帰れるようにという私の小さい頭で思いついた思いやりだった。あとは、見知った景色に囲まれている方が安心感というのもあるんじゃないかと思って……私なんて赤の他人なのだから。
「わざわざここまで来てくださってありがとうございます」
「別にいいのよ。どうせ私を必要とする時間なんてないもの」
相変わらず人と会話をする言葉を選ぶ能力がないことを痛感する。
その割に、口火を切ったのは私だった。
「それで、今のあなたは以前私が見たときと随分変わって見えたのだけれど……聞いていいかしら?」
「はい、先輩はお世話になったので……大丈夫です。むしろあそこでこんな話したいと思うのはもう先輩くらいですから……」
もはや私に縋り付くほかないということかしら……。
そうして彼女はぽつりぽつりと小雨が地面を少しずつ染めていくように……。
私に今の自身の状況を話してくれた。
「最初はよかったんです。普通にお話しして下さる先輩方も増えてきて、頑張れば頑張るほど実績もついてきて褒められて……って順調だったんだと思います」
それは安易に予想がつく。
彼女くらいとっつきやすい相手ならついつい甘やかしてしまうでしょうし。あの清廉潔白な中身が滲みでている笑顔を振りまく彼女と言うことなら信じやすいのも頷ける。
「でも、それも長くなくて……気付けばお話ししてくれる方がどんどん減ってきたんです。それも私が外での仕事が多くなってきたから気を遣って下さってるのかなとか、みなさんも本当ら忙しいのに私に構っててくれてたのかなとか色々考えたんですけど……なんか普段の視線が痛くて…………なんでか分からないんですけどすごい厳しく見られてる気がして、それが辛くて……」
…………そんな可愛がる後輩の無垢さというのも。
結局、周りにとっては無害ではなく、脅威に変わっていくからなんでしょうね……。
その甘やかしが営業先をどんどんと虜にしていくから、ふと振り向けば彼女が自分の仕事を奪っていく……。
周りの素直な言い分とすれば下っ端に横取りされていくのを流し目で見ているだけなんて気に食わない。
だからと言って、自分が彼女の真似をできるわけじゃない。あの新人故のぎこちなさや、経験の少なさからの未熟さ上に立っている愛嬌には敵いっこないのよ。
それでも実用的で効率的な話術さえあれば、それはそれで仕事は増えていくけれど……。
みんな、どうせそんな努力は怠るくせに、成績やお金だけは欲しい貪欲な生き物ということよね……。
本当、誰もが不憫で不快で……滑稽に映る。
そしてしばらく彼女の話しを聞くだけに専念する。
彼女もあらかた吐き出したところで、ようやく注文していたコーヒーを口に入れる。さすがにもう冷めていて美味しくないはずのそれを含んで、彼女は一拍置いてから飲み込んでいた。
「それで先輩に少し聞きたいんですけど……」
「ええ、なにかしら?」
「先輩は周りの方となにか違うというか……別のところにいるような気がして安心できるんですけど」
それは思っても見なかった彼女からの評価だった。
私が周りと別のというのは納得する。もはや生きていてもどうにもならない生き物なのだから。
今を自分なりに精一杯もがいている不恰好な人ほど私にはむしろ眩しく見える。
でもそんな傍観者で諦観しきった私のどこに安心できるというのかしら……全くもって理解できない。
それでも彼女は続けた。
「今日あのとき、私を死なせたくないって言ってくれたとき、なんだか本当に心が落ち着いた気がしたんです」
「たまたまよ」
「いえ、そんなことは……! あ、いえ、でも……それがたとえたまたまだったとしても、私はあのときそれを言われて救われたんです。あのまま家に帰っても、私……本当に死んでたかもしれないですし」
「……でも、今日だって今はこうして話してくれているけれど、帰って一人になって、また明日のことを考えると死にたくなるんじゃないかしら?」
「それは……正直分からないです。でも、今まで同級生とか周りの子たちにはそんなこと言われたことないですし。いつもだったら辞めればいいよとか、私もしんどいから一緒に乗り切ろうよとか言ってくれるんですけど、ちゃんと響かなくて……でも先輩のあの一言はなんだかちゃんと見てくれてるがして嬉しかったんです」
「それは期待しすぎなような気がするし、私はわざわざ重荷を背負うこともしたくないわよ……」
どうせその責務を果たせるわけでもないのだし。
「ただ、あなたのその目は、昔に私が唯一知っている子がしていた目とすごく似ていたのよ」
そう、私が唯一無二といっても過言ではないあの子の目に。
どうもおはようございます雨水雄です。
もう雨水からすればおはようというよりおやすみしたいこんばんはくらいの気分で今あとがきを書いております。
それもこれも、今日は京都のイベントである、「京まふ」に参加してへへへと気色悪い笑みを浮かべながら巡回したのち、満喫した心持ちのまま勢いで地元の映画館に飛び込み「ワンピース」を鑑賞してはわんわん泣いて、その吹き立つ心持ちのまま友人と会いまして今の今まで……本当にさっきまでボウリングをするという狂い散らかした詰め込みすぎな一日を送っていたところなんですね。
それでも今日はすでに日曜日。このまま眠ってしまってはせっかくの定期的に投稿していた時間に間に合わない……ということで急いで今ここでこうしているのですが、ここまでの内容がほぼ駄文なあとがきというのもどうかと……思うわけです。かといって他になにか書くとしても今の雨水の睡眠欲に支配された脳みそではなにも思い付きません。よって今週はくっそくだらない日記をお伝えさせていただきました。以上です。
あ、みんな台風気を付けて下さい!気を付けてもどうにもならないことがあるかもしれませんが、気を付けることでなにかを防げることもあります!
そのあとにさらに描く虹を共に見れるときまで、耐えてやりましょう!
さて今週もこのまま読んで下さりありがとうございます。
では来週もよければここで。




