第4話
どんな些細なことでもいい。
人の心ってさ、思ったよりも繊細だから。
なにかあればどんな形でもいいから、生きたい道を見つけてほしい。
私には、あなたがいたから、それだけでよかった。
結論からはっきり言ってしまうわ。
彼女の成長は私の想像を遥かに上をいくほど著しく、独り立ちするのも容易なものだった。
私の力なんて一切必要なくて、やはり無駄な時間を与えてしまったんだわと詫びたい気持ちでいっぱいだったわ……。
彼女の持ち前のコミュニケーション能力と、そこに付与されている愛嬌はこの仕事に向いていて、これからも実績を残しては評価されて一生安泰するんでしょう。
そう、いつまでも選ばれない私とは違って……。
そう、思っていたのだけれど。
結論の続きは残酷なもので。現実とはこんなにも惨たらしいものなのだと改めて私の胸の底を抉り取った。
詳細を話すと、彼女は騙されていたの。
その素直さと、純粋さが仇となって、いい子という人物像はいいように扱われて。
それでも努力と愚直な見栄っ張りは再び嫉妬心を生み出し、向上心という人にとっての成長過程に必須な栄養素は削ぎ落とされていき……。
そんな日々が繰り返されるうちに彼女の純白な浄水が溜まっていた器は、どんどんと澱んで濁って、穢れていく……。
私が…………私の元を離れてから彼女と再会したときは、すでに遅かったんだと思うわ。
「あ、佐奈川先輩。お久しぶりです……」
デスクも距離があって、それこそ私にわざわざ用があるわけでもないから会うことはもうないと思っていた。
だから、たまたま帰り際に彼女を見かけた時。
その明らかに変貌してしまった容姿と、彼女を表すあの愛嬌のあった色がひどく汚れてしまっていることに驚きが隠せなかった。
「平野さん……?」
覇気はなく、瞳から放つ眩い光源は跡形もなく消失していて、彼女はまるでこの世界すらも恨んでいる絶望の色をしていた。
私が驚愕まじりの声で呼びかけると、彼女はだらんとした全身で私に頭を下げる。
「先輩も今帰りですか? お疲れさまです……」
いつも通り定時で帰ろうとしていた私はすでに椅子から腰を上げて、鞄を手に取っていた。
「ええ、そうだけれど。平野さんも今帰りかしら……?」
私のときだったけれど、新人の頃は仕事に慣れていなくて残業するなんてこともザラだった。
そのことも考慮すれば、やはり彼女はただおしゃべりが上手なだけの一発屋ではなく、優秀なのでしょう……。
じゃあなぜ今彼女はこうして色がないの……?
こんなにも灰色に霞んでしまった原因はない? もしかして私が起因になってしまったの……………?
「はい、ちょっともう……疲れちゃって……」
彼女の声にはもう先日までの生気もない。
疲れたとも言っている。
彼女本人が、自分をよく理解している彼女自体が疲れていると言っているのよ。
…………私はその顔を見たことがある。
それは今の私そっくりよなのよ。彼女は。
「そう……。なら早く帰ってちゃんとゆっくり休むといいわ」
もしかすると彼女は仕事ができるできない以前に、もうやりたくないのでしょうね……だから逃げるように帰りたいと体が叫んでいる。
ええ、まさに私とよく似ているわ。
そしてそんな自分が、ゆっくり休めないことも、私は知っている。
「はい、ありがとうございます。お言葉に甘えて明日は休もうかと思います……」
彼女は私と目を合わせない。合わせようとしない。
もう、誰とも関わりたくないと言っているようなもの。
「なら、私から上司に伝えておくわ」
「……ありがとうございます」
彼女はそのまま小さく会釈をして、私に背を向ける。
放っておけばその小さな背中がさらに存在感を失っていく。
どんどんと喪失感が積もっていく。
濁世に呑み込まれていく彼女の姿を。
「平野さん、少しだけいいわ。私と話しましょう」
私はどうして引き止めたのでしょう。
離れていく彼女を追いかけ、簡単に縮まる距離に甘んじて、私は彼女の手を取る。持っていた鞄を無意識に放り投げるほどに私は彼女に夢中になっていた。
だってそうでしょう……。
手を握られた彼女はふと振り返っては私と目を合わして。
「先輩…………」
泣いていたのだから。
「あなたをまだ、死なせてはいけない気がするの」
どうもおはようございます雨水雄です。
今作になってから早朝に投稿するようになったんですけど、まぁこんな朝早くから見てくれてる人っていないよなぁ……とは思ってるんですよ。みんな普通に寝ててもおかしくないしね。
ただ、まぁ自分がそうであるように、仕事上早く起きないといけない人とかもどこかではいるわけで、そんな人の時間潰しにでもなればと思います。
いずれは雨水の作品が読める時間だ!と思ってもらえるような作品を書いていく予定なのでよろしく!
というわけで、人によっては同じ24時間の枠が違ったりするので、こうして早くから始めてしまえばなるべく今日一日長い間を通して暇潰しを用意できるかなとも考えてるわけです。いずれは雨水の作品が(以下略
あなたが始める一日の中で、小さな幸せの一員になれるよう雨水は今日も頑張らせていただきます!
さて今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。




