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曇天の下の極彩色  作者: 雨水雄
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第44話

人はいつだって嘘のマスクを被る。

それが幸せの蜜の味だと知ってしまったのなら。

過去なんていくらでも糊塗できてしまうんだろうから。

「え、笑美えみ……? なにを言っているの?」

「うん。ごめん……言葉通りの意味。私はある一人の女の子をいじめていたことがあるの」


「だからさ、向いてないんだよ。私」




固まって動けない。

開いた方が塞がらず、次の言葉が発せられない。

次になにをしたいのか、考えが一向にまとまらない。

私は今、なにを聞かされていて。

誰の声を聞いているの……?

「私とその子が出会ったのは中学のころなんだけどさ」

"いじめ"という切っても切り離せない、私たちにとって憎悪と嫌悪と醜悪の集まった駄作としか言えない人種の成す行為を……今彼女は自分が主観者として語っているというの?

なぜそんなにも淡々としているの? なぜそんなに流暢なの?

私たちは一体どういう関係だったの……? あなたは今まで私をどんな風に見ていたというの?

「その子はいつも物静かですっごく真面目で、なにも間違ってなくて、ずっと正しい子だったの」

「髪も真っ黒で一切遊んだことないんだろうなって……まぁ私も中学のときなんかお金なかったし。でも髪型を変えたりとかそんな意識はあるんだよ。誰しもあると思ってた。やっぱり男の子から可愛い見られたいって気持ちがあるから……」

「でも、その子はそんなことないみたいになにもしなくて、いっつも変わらず髪は下ろすだけ。それでいつも教室の隅にいるの。そんな可愛い子。本当に可愛い子だった……」

一瞬、笑美えみの声に曇りがかかる。その間の後、また続いた。

「その可愛さが、人を傷つけることもあるんだよね……。誰かの一番を奪って、自分は悪くない、無関係だって顔で、その無関心な距離感が逆に人を惹きつけるとか……」

「本当、人って盲目だらけでさ。自分が満たされることが優先されて、そのくせ他の人の光る部分には敏感でさ……」

「劣等感と利己的な満足だけで承認欲求する人ってさ、結局人を下等だと認識するしかない……分かる?」

そこでようやく、私は声が出た。

これは憤りか。いや違うなにかが……私を突き動かしている。

「それがいじめに発展する……笑美えみは好きな人がいたの?」

彼女の一番はまた別にいて。

それがたとえ過去のものであったとしても、私の知らない一番がその人には秘められていた。

そして、その原動力が、笑美えみの非道を生んだというのなら……。私は今どうして笑美えみの一番でいたいのか。

違う、違う違う……笑美えみはそんな人じゃない。私が知っている笑美えみは、じぶんのこと一番のために誰かを殺すようなことなんてしないはず……。

「ううん。いなかった。でも、私と仲が良かった子がさ……その品行方正でほんとどこにいても分かるくらいの百合の花みたいな子と争わなきゃいけないって苦しかったんだよね」

「その子は、最初は頑張ってたんだけどね。自分で自分を磨こうと努力した。ちゃんと化粧を勉強して、可愛くなろうって、まずしっかり見てもらおうって」

「でもそれじゃ届かなかってさ……その間にもその子は勉強も運動もそりゃ真面目にやっちゃうから。成績とか内申が目につくようになる。教師はそこばかりを褒めるから。誰も可愛くなることに真剣に向き合ってはくれないから……」

「だから、いじめ……?」

そんなの間違ってる。だったらやり方を変えればいい……。

でも……私がもし同じ立場で、笑美えみを取り合う相手の壁が果てしなく高いものだとすると。

私は……どうするだろうか。

「私なら、きっと諦めてしまうわ……」

諦めきれなかった彼女は、結果としていじめをしてしまった。

「私もそうだった……だけど、止められなかった。彼女がいじめてることをただ傍観することしかできなかった」

それに反発することで、自分が標的になるのが嫌だったから。そんな答えは分かり切っている。人は誰しも、できるなら省エネで幸せがほしいもの。

「でもあるとき、私も化粧しなきゃ仲間外れにされると思って、化粧品売り場に行ったらさ……その子がいたんだよね」

リーダー的存在が化粧をすると、そこに協調しなきゃいけない。同調して共感してあげなきゃ……メンタルケアしてあげなきゃアクセルは止まらないから。せめてもの緩衝材がそれだったんでしょう。

その場の雰囲気を、最悪にもその子も感じ取ってしまったのね……そのときに限って間違った方向で。

正しい子が、オアシスを求めて踏み外した先に蜃気楼だと知るように……。

「私はそれを見て見ぬふりしかできなかった。そこに声をかけると、誰も報われないから……私って本当なんでもない無力だったんだ」


「だから、最後はその子が飛び降りる瞬間にでさえ、私は泣くことしかできなかった」


「その日はさ、その子が屋上に行くのが見えて……。たぶん、いつもいじめてる子が風邪で休んでたから機会としてはよかったんだと思う。私も一人だったし追いかけたの」


「そしたらさ、端っこに立って私と目を合わせるの。


『今まで見てくれてありがとう。あなたとはもう少し早く会っていたかった。優しい顔のあなた……笑美えみちゃん』


それだけ言い残して、姿が消えたの。分かる? 人って本当に下に落ちるだなって……上に飛んでも、そっからは真っ逆さまなんだよ……そんなの死ぬしかないじゃん」


「そして、その子が命を捨てた日っていうのが、今日なの」


私はその後の彼女の声を知らない。

一切聞いちゃいない。なによりも早く。

早く早く早く早く早く早く早く速く………!!!

「屋上に行かなきゃ」



どうもおはようございます雨水雄です。

いやぁ……いよいよですかね。物語もかなり終盤に差し掛かかってるかなと思います。

雨水的にもこのままどう終着していくのか……彼女たちの行動、言動が勝手に突き進んでいく感覚というのは止められないので、あたたかく見守っていただけたらと思います。

さて、今週もここまで読んでくださりありがとうございます。

では来週もよければここで。

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