第43話
もう、ここまでくると引き返せないから。
あなただけを信じていても。
あなただけしか信じられないから。
それくらいなら、この後で一緒になれる方が私は楽なんだよ。
家にいないのだとすれば……。
私はポケットから携帯を取り出す。
まだ完全に会えないと決まったわけじゃない。
会えないというのならば……。
会いに行くと伝えるところから。
何度目のコールになるのか、それはもう忘れた。
彼女は今、携帯を持ってないかもしれない。もう、無視を貫いてるのかもしれない。
それでも、かかるまでかける。私にはそれしか手段がないから。
彼女の家の前で何度もいつまでも待ち続けた。
会ってなにかができることはない。それはいつだってそうだった。私にはなにもない。
これを機にまたあんな日々が取り戻せる保証だってない。私にそんな力はなくて、あるのはこの残された気持ちだけ。
心だけが彼女を結びつけている。愛という名をつけて、彼女を追いかけ続けている。
もはやこれは軛。鎖。縄。
どれだって構わない。私はもう迷うことも忘れるほど、彼女に囚われているのだから。
だから、これはお別れなんでしょう……。
今こうしている時点で彼女と私はもう一度繋ぎ合うことはない。縫い合わせるほどの糸がもう足りない。そんな実感は確かにあった。
拒絶なんかじゃない。否定でもない。おそらく、諦め。
私じゃ繋ぎ止めるには役不足だったから……。だから、最後の挨拶を交わすために私は今生きてる。
彼女以外なにもない私がこのままそのときを迎えてしまえばどうなるのか……。
答えはきっと、勝手に体が教えてくれるはずよね。
彼女が電話にでてくれたのは、もうすっかり、夕焼け空に染め上げられたころだった。
「あ……ごめん、涙ちゃん?」
久々に聞いたその声は。
止まっていた旋律が、五線譜の上を物凄い速さで駆け巡るようだった。
追憶を辿る私の脳内は、次々に崩れかけたピースを埋めていく。足りないなにかがどんどんと補修されていく感覚。
あぁ、ただ声を聞いただけなのに……その声だけでもうなにも不安はなかった。
「あなた、どれだけ待たせるのよ」
満を持して、私はかろうじて呆れて見せる。できればもう少し願わせてほしいから。
叶うなら、その姿を見たいという……。
「うん、ごめん。ほんとにごめん……ちょっと考えごとしながら歩いててさ」
「こんな時間にどこ行くというのよ。私、今あなたの家の前にいるのよ」
「え、そうなんだ……じゃあちょうど入れ違っちゃったなぁ……」
「……笑美、あなたまさか学校にいるの?」
「うん。実はそうなんだ」
確かに、よく耳をすませば、向こう側からは風の音が聞こえた。
私の目の前にはない気配の音がした……。私たちがいつも会う場所にはない音。
「どこにいるの? 迎えに行くわ」
「いやいや来ちゃダメだよ。もう暗くなってくるんだから危ないよ」
「それは笑美だって同じでしょ。私たち二人なら大丈夫だから。だから行くわ」
「そっか……うん。ちゃんと間に合ってね……」
「ええ、ちゃんと待ってるのよ」
「じゃあ、ちょっとだけ。お話でもしようよ涙ちゃん……いや、お嬢」
「ええ、いいわよ。好きなだけ付き合うわ」
語り手の笑美が話してくれたのは、中学のときの過去話だった。
思い出していいのか複雑な記憶なのでしょう……それも、今に至る元凶がそこに潜んでいるでしょうし。
別に無理して話さなくていいといっても、彼女は続ける。もう洗いざらい全部聞いてくれたいわんばかりに一方的に語り続ける。
そして、その内容の切り出しはまず私の耳を塞いだ。
「実はさ、私……中学のときいじめをしてたんだよね」
それ以降のことを上手く誰かに説明できやしなかった。
これはきっと私だけが聞いて、私だけが知って。
私だけが呑み込まれている。
どうもおはようございます雨水雄です。
えぇ、今日は生憎の雨ですが……気合い入れて頑張っていきましょー!!
仕事の人も、お休みの人も、充実した一日になるよう願っています。計画性大事だからね!!
今週もここまで読んで下さりありがとうございます。
では来週もよければここで。




