第31話
なにもかもを受け入れられる自信はあった。
でも、私が見せるあなたへの私は、いつもどこか格好つけようとしていて、そんな私が、私はどうしよもなく格好悪いな……なんて思ってたりした。
「さてっと……」
どさっと、その重量を物語る大荷物を私の部屋の隅に寄せる彼女は、すでにこの家の住人に化していた。仮にも、夏休み限定だけれど。
その中には私と過ごすために課題をたくさん詰め込んできたんでしょう。何日も着替えがあるように蓄えも精一杯運んできたんでしょう……。
そして今、お互いが一日千秋のごとく待ち望んでいたこの日。
まさか同じベッドで寝る羽目になるとは、夢にも思わなかったいつかの理想が叶ってしまう目の前。
私の心理状況は、あまり褒められたものではなかったでしょうね……。私自身、自分がこんなにも欲にかき乱されるような利己的で打算的な卑怯者だとは気付かなかった。
どちらかと言えば、世間体を過度に気にして、表面上では効率をひけらかして、たとえ孤立無援であったとしても何食わぬ顔で素っ気なくことなきを得てしまえばいいと、無闇に人を選別する酔狂な意識を振り撒いているだけ。
それだけ彼女だけがいればいいと、そんな彼女だけに示す自己顕示欲だけがあればいいと、いつからか強い存在証明を求めるようになった。その結果、周知が捗ることは単なる副産物で、私はあくまでも一つの釣果さえ目に見えればいい。
……それは、それでも稀有なものではないと知っていた。
誰だって、意中の相手には振り向いてほしいから。その人の笑顔も泣き顔も怒り顔も困り顔も……全部全部打ち明けて欲しくって、自分はしれっとそれを解決したくって。
そんは頼りになることを証明したくて。自分がいなきゃダメだよねって確認したくて……。
エゴばかりが膨らんで、その分、意中の存在意義がどんどんと自分の中を支配していく。
つまり要約してなにが言いたいのかと聞かれれば……私なら。
私がこんなにもあなたを愛していることに気付いて欲しい。
と言いたいのかもしれない。
決して、愛してほしいとは言わない。あなたからの愛はすでにもらっていて、こうして隣にいてくれるだけで両手一杯になってしまうから。
この寵愛を対等にしたいから。私は私の限りを尽くしてあなたに、あなたが感じる両手一杯の愛を受け取ってもらいたい。相思相愛を目視できるんじゃないかってくらいに。
これを人に話すとしたら、あまりにも冗長で、結局なにが伝わるのかと、私は夜のベットの中で一人頭を抱えてしまい、暗闇に呑まれてしまうことがある。
でも、この気持ちは簡単にしたくないのよ……。私は本当に彼女を愛してしまっているから。こんなにも愛で溢れてしまっているから。
共に過ごす時間があるだけで胸もお腹も頭もいっぱいいっぱいになってしまうから。
返したい、与えたい……思い合っていたいの。
その簡単な方程式を。簡単な言葉でまとめたくないのよ……!
だから、一つの単語を。たった一言伝えるだけの時間に。
こんなにも色んなものを注ぎ込んでいるの。
そうした私が、今、欲求に塗れてしまっている。
そう自覚したのは、課題中に机を挟んで対面で互いにペンを走らせている最中のことだった。
時たま触れ合う足の指先をすぐに引っ込めた。分からない問題があると言った彼女が近づいてきても肩が触れ合うことを避けた。
課題を一通り終えて、彼女が化粧したいという時間を奪った。
「え…………」
母が丹精込めて作ってくれた私の好物であるグラタンを、自己紹介も含めて色々と話題を広げて楽しく食べた。「すっごい美味しいです!」笑美も大変喜んでくれているようで、母がはっきりと照れている様子を私は初めてに近い感覚で久しぶりに目にした。
「涙ちゃん…………?」
二人で、順番こにお風呂に入り、同じシャンプーの香りを振り撒きながら私の部屋に戻ってきて、まだ眠るには早い時間。
先に部屋に入った笑美のあとに私は扉を閉める。
ついでに電気を消した。
驚いたようにこちらに振り向いたであろう笑美は真っ暗闇と同化していて、私はそこにいるであろう体温を両手で抱きしめてベッドに共倒れ。
「笑美……ごめんなさい」
「急にどうしたの?」
笑美は私の縛り付ける両腕を解こうとはしない。身動き取れないままそっと話しかけてくれる。
そのやさしさが、また私に拍車をかける。
だってそうじゃない……ここまで、このときのために我慢してきんだから……。
「せめて、今日はこのままなにも言わないで寝てくれないかしら?」
一般的には臆病者、小心者、ろくでなしなんて揶揄してくることでしょう。私だってそのあとのことくらい分かってる。
でも、分かってほしいのよ……。
私はこれだけで本当に幸せであるということを。
「うん、いいよ」
この日、私は欲望と主従関係が一転したことを自覚した。
抑えられると思っていたものは、ついに満を侍して逆効果になってしまった。
理性的を装って、自制的な表情を浮かべていた私は、私の幸せの形を手にして愛を伝えたくて、笑美を支配した。
でも、彼女は何も言わずに、ただ頷いた。
この夜でさえ、簡単な言葉は、まだ私の中で眠っている。
「ありがとう、おやすみなさい笑美」
「うん、おやすみお嬢」
どうもおはようございます雨水雄です。
いやいやついに……ついに!春ももうすぐそこまできてますね。なんならもう春の兆しはあって、片足踏み込んでいる気はします。いやぁ……桜が楽しみです。
それはそうと、最近の雨水は動画投稿に関して四苦八苦を繰り返しておりまして……撮るのもまだぎこちない。編集もまだ稚拙で、なにやっても完成度は低いなぁ……と嘆くばかりです。
ただ、ここからは出会いと別れの季節の到来ということですので、そんな雨水の全面をちゃんとあなたにお届けできたらと思ってますので、お暇がある方はどうぞお立ち寄りくださいな……なんて。
さて今週もここまで読んで下さりありがとうございます。
では来週もよければここで。




